「魔法少女風味ミリンちゃんは、人騒がせな家出娘だ」


 おい、これはなんだよ、このナップザックは。もしかしてミリンちゃん、これ、お前のか。やけに荷物が多いじゃないか、何を詰めてきたんだ。言いながらなんだか嫌な予感がするのを俺は感じていた。何って、着替えのお洋服に決っています、お兄ちゃんさんは服を三日に一度しか着替えない野蛮人さんなので分からないかもですが、人間というのは毎日服を着替えるものなのです。別に三日も同じ服を着ているなんてことはない、確かに似たような服を何着か持っているし、毎日似たようなファッションをしているが、ちゃんと服は着替えている。やれやれ、出会ってすぐだというのに飛ばしてくれるね。今日もミリンちゃんの毒舌は絶好調、悪口のバーゲンセールだ。
 なるほど、着替えな。よしよし、それは分かった。で、他には何が入っているんだ。お土産か、それなら早く出してくれ、今日は午後から仕事にいかなくちゃならん、だから、そんなに家でゆったりもしてられないんだよ。俺がそう言うと、ミリンちゃんはすぐに何を言っているんだという顔をした。お土産なんて持っていません、持っていても何でお兄ちゃんさんにあげなくてはいけないんですか。確かに彼女の言う通り、俺にお土産を持ってくる義理なんてないし、俺のことをわかりやすいくらいに毛嫌いしている彼女ならば、俺にわざわざそんな物を持ってくるようなことはしない。しかし、それじゃぁ、いったいそのナップザックに何が入っているんだ。まさか、全部服というわけじゃないだろうな。恐る恐る、その最悪の可能性をミリンちゃんに尋ねると、だからそう言っていますと、さも当然といった顔をした。
 なんでそんなに大量の服が必要になってくるのか。理由は単純、それだけの量が必要になる期間を俺の部屋で過ごすからに他ならない。お前、俺の部屋にいったいどれだけ居るつもりなんだよ、と尋ねると、ミリンちゃんはつんと顔をそっぽを向いて聞こえないふりをする。都合が悪くなると、彼女がよくやる常套手段だ。こうなってしまうと、ミリンちゃんは意地でも質問に答えない。しかし、それで誤魔化される俺でも、引き下がる俺でもない。なんでわざわざ嫌ってる俺の部屋に、そんな長居しようとするんだよ。なにがあったんだよ、父さんや母さんと喧嘩でもしたのか。コロ太の世話はどうするんだよ。あと、この部屋にお前の寝る場所も、寝る布団もないからな。昨日と今日はたまたま俺が出かけてたから、俺の布団で寝れたかもしれんが、今日は俺がその布団で寝るから、お前の眠る布団はないんだぞ。俺は矢継ぎ早に言葉を繰り出し、ミリンちゃんをまくし立てたが、流石は幼い頃から芸能界で働いているだけはあり、顔色一つ変えず、ピクリとも反応を見せず、ミリンちゃんはまさに鉄面皮のまま明後日の方向を見つづけていた。
 うぅん、朝早くから何を騒いでるんですか。ミリンちゃん、元気が良いですねぇ。けどけど、もうちょっと静かにしてください。お姉ちゃんはまだ眠たいのです。むっくりと、暖かそうな布団の中から味噌舐め星人が起き上がると、くしゃくしゃの顔をしてあくび混じりに俺たちに言った。朝早くも何も、もう朝は終わろうとしている。何を寝ぼけているんだよと俺がつっこむより早く、お姉ちゃんさんと、ミリンちゃんが味噌舐め星人に飛びついた。