「砂糖女史のメイド・イン・アンダーグラウンド」


 俺が待望した佐東匡の新作は、のっけからセックス描写で始まっていた。
 口の中に導いたペニスを頬と下と喉を使って締め上げる。彼は情けない声をあげた。女の子のように、止めてヤメテと呟く、彼。皮をかぶった男性器は、生殖をするのはまだ無理だと暗に主張していた。しかし、その未成熟な果実から無理やりに皮を剥ぎ取ると、私はまだ空気さえも触れたことがないであろう、彼の体の秘められた部分を貪った。青臭い男の匂いが私の口いっぱいに広がる。その匂いは、果てた男が出す樹液のように脳を痺れさせた。
 ねぇ、もう止めてよ。なんでこんな事をするのさ。いったいぜんたい何がしたいっていうのさ。女にここまでされて何も分かっていないネンネな彼のために、私は彼の分身から口を離した。セックス。端的にそれだけを伝えると、私は自分の股間から愛液を人差し指ですくい上げ、彼の前に翳した。濡れているの、分かるでしょう、貴方も知識としては知っているでしょう。人間は快楽を求めて発情する生き物なのよ。そして快楽を求める心、性欲は、どれだけ人間が時を重ねても、けして消えることも変わることもないのよ。何もしなくても、人間が水を欲するようなもの。生きている限り、私たちは性欲というしがらみから逃げることもできないし、克服することもできはしない。私たちの心のどこかは、常に世界に晒され乾いていて、なんとかしてそれを潤そうと、私たちは他人に縋るのよ、分かるかしら。分かるよ、と彼は息苦しそうに答えた。けれど、こんな乱暴にすることはないだでしょう、僕の気持ちを無視してやることはないでしょう。彼の無垢な目が私を睨みつけた、これまでに注がれたどんな侮蔑の目も、どんな嘲笑の瞳も、どんな好奇の視線も、彼の許しを請うようなそれには敵わないだろう。私はたまらずすくみ上がった。それと同時に、精神的な凌辱が私の中で始まった。肉体的に彼を犯しながら、精神的に私は彼にレイプされるのだ。どんな高級酒の誘惑よりも、その思いを裁ち切ることの方がはるかに難しいだろう。求めているのは私なのよ、満たされなくちゃいけないのは貴方じゃない、私なの。私はこんなことをするに至った私の精神的な状況を簡潔に彼に述べると、鮮やかなピンクをした彼の分身を、濡れそぼった熱っぽい私の入り口に当てた。
 タイトルから、てっきりメイドの話かと推理したが、内容はまったく違っていた。メイド・イン・ジャパン、メイド・イン・チャイナの、メイドだ。それは、社会のアンダーグラウンドで生まれた少女と、普通の青年の話だった。過激でこそあるが、典型的なボーイミーツガールだった。とある淫行教師が、年端もいかない自分の教え子を孕ませた。家族から迫害を受け、子を設けた教師にも捨てられた女は、自らの性を売り物にして生計を立てた。女の娘である主人公の少女は、生きるために自分の体を人に任せる母の姿や、性欲に任せて獣のように母を扱う男たちの姿に、人間的性質を凌辱され、内面に深いトラウマを抱え込む。自分の様にはならないでという母の願いも虚しく、ついに母の客達により無理やり犯されてしまった少女は、内面に涌いた彼らと同じ耐えがたい欲望に駆られて、もう一人の主人公の青年を犯す。
 それは後ろ暗くどこか寂しい作風が特徴の、佐東匡らしい小説だった。