「それでも塩吹きババアは帰ってこなかった」


 うゆっ、なんですか、どうしたんですかお兄さん。くすぐったいですよ、お兄さんのお布団はお隣ですよ。ぐっすり眠っていても、流石に抱きつかれれば起きるのは仕方がないだろう。目の辺りをくしくしと擦りながら、寝ぼけた口調で味噌舐め星人は、彼女の背中に抱きついている俺に言った。俺は彼女の視界が完全に開ける前に、彼女の現状を把握する前に、その体にさらに密着する。右手を彼女の臍に左手を彼女の下胸に忍び込ませ、茶色いフェルトでできたフードにより隠された、彼女の後頭部に唇をそっと近づける。
 一緒に寝たいんですか、甘えん坊さんですねお兄さん、見かけによらず甘えん坊さんですね。この状況でどうしてそんな暢気なことが言えるのだろうか。時々、本当に彼女の純粋さが愛しく感じられる。それはもう、自分のくだらない彼女に対する劣情が馬鹿らしくなってくるくらいに。けれども、今日ばかりはそうはいかなかった。俺の中で彼女に対する劣情は、もうちょっとやそっとの事では処理できないようになっていた。もし、止められるものならば、こうして抱きついていたりなどしない。まだ心の中に、欲望のままに走り出すことを躊躇する精神が残っているのが、今の自分を制御できずとも冷徹に見つめられる意識が残っているのが、俺にとっても味噌舐め星人にとってもせめてもの救いだった。そして、その救いさえも、一度俺が動き始めたらどうなってしまうか分からない。それでも、動かないわけには行かなかった。動かずには居られなかった。俺はぐっと彼女の肉付きの良い尻に、自分の下半身を強引に押し当てると、強く味噌舐め星人の体を抱きしめた。
 痛いです、痛いですよ、お兄さん。もう私は眠い眠いですから、そんなに強くぎゅってしないでください。目が覚めちゃいますよ。かまうもんかと、俺は味噌舐め星人の体を強く抱きしめる。だから、痛いですお兄さん、あっ、あっ、どこ触ってるんですか、なに触ってるんですか。下胸から徐々に徐々に這わせた俺の左手が、彼女の慎ましやかな胸を布越しに撫でる。肋骨のごつごつとした感触がふと手の中から消えたと思えば、硬質な肉芽の感触を俺の指先が感じ取る。もじもじと俺の腕の中で身をよじる味噌舐め星人、そのフードを口で脱がすと、彼女のあらわになった耳元に俺はむさぼりついた。キャラメルのように口の中でとろけてしまいそうな、やわらかい彼女の耳たぶを俺は丹念に舐め、歯で挟み、食む。彼女の髪が口中に混じるのもかまわず、俺は彼女の小さな耳を貪った。乱暴に、独りよがりに、気持ち悪く。
 やめてください、やめてください、そんなことしたら嫌です、気持ち悪いです、気持ち悪いですお兄さん。味噌舐め星人の声にはいつしか泣き声が混じっていたが、それを俺はあえて無視した。そんな事をされても、男は余計に興奮するだけだったし、俺の神経もまたますます高ぶるばかりだった。
 俺は彼女の臍にあてがっていた右手をそっと彼女の股下へと移動させると、パジャマの裾をゆっくりと捲りあげる。そして、シルクよりも上等な肌触りの味噌舐め星人の太ももの上を、蜘蛛のように指を滑らせると、硬く閉じられた彼女の股を二つに割り、自分の股間から怒張した己の分身を開放する。
 相変わらず、塩吹きババアは帰ってくる気配はなかった。微塵もなかった。