「味噌舐め星人の栄華」


 結局、店長と醤油呑み星人はいいともが終わるまで俺の部屋に留まった。そして、いいともが終わると、昼休みは終わりだとでもいう感じに店長は立ち上がり、それじゃぁ僕たちはこれで帰るけどちゃんと養生するんだよ、明後日からはちゃんと仕事に入ってもらうからと、上から目線で俺に言った。言われなくてもそこら辺はちゃんとする、しかしまぁ、体をねぎらってくれているのには素直に感謝しよう。わかったよと俺が店長に言うと、今度は横から醤油呑み星人がしゃしゃり出てきた。熱で頭沸いてこいつを襲わないようにねと、味噌舐め星人を指差す醤油呑み星人。彼女は塩吹きババアのように、なんとも人を苛立たせる笑顔をしていた。言われなくても誰がするか。
 おじさんとお姉さん帰っちゃいましたね、ちょっとつまんないです。そうか、静かになってよかったけどな。俺は、再び俺の腹の上に頭を載せてくつろぎはじめた味噌舐め星人に言った。だってだって、お兄さんお病気ですから私と遊んでくれないじゃないですか。テレビ見てるだけじゃないですか。退屈ですよ、私、退屈してるんです。くるりと頭を回転させてこちらをむいた味噌舐め星人は、ぷっくりと美味しそうなお饅頭のように頬を膨らませた。遊んで欲しいといわれても、そんな元気は今の俺にはないし、そんなことをして味噌舐め星人まで病気になっても困る。我慢しろよと、俺は彼女の乱れた長い黒髪を撫で付けるようにして梳く。くすぐったそうに彼女は笑った。
 やはり昼のテレビはたいした番組がやっていなかった。夜のドラマの再放送も、昼の連続ドラマもどれも今ひとつ感情移入できない。ニュース番組もこれといった気になる話はなく、双子の評論家たちが映画やファッションについて熱く語っていた。結局、俺はチャンネルを変えているうちにふと目に付いた、古い映画を見ることにした。映画は、OK牧場の決闘だったか、それと真昼の決闘だったか、どちらも見たことのない俺にはわからなかった。しかし、とにかくそれが一昔前の西部劇だということは確かで、昨今映画館で放映されているようなスリル過剰な洋画と違い、銃声と銃声の間が長く不必要に周囲の音がない銃撃戦は、刺激が少なく病気の俺にも程よく楽しめた。
 格好良いですね、百発百中ですね、凄いですね。味噌舐め星人は、すっかりと映画に夢中になっていた。格好良いって言っても、どっちも人殺しだ。俺が冷めた感じにそういうと、どうしてそんなこと言うんですかと味噌舐め星人は俺の太ももの辺りを、ぽふぽふと音を立てて布団越しに、その柔い握りこぶしで叩いた。いつもの皮肉さ、やめろよ病気が悪くなったらどうしてくれるんだと、俺は彼女のつむじにでこぴんを食らわす。不必要に大きな声で痛いと叫ぶと、味噌舐め星人はこちらを振り返り、口元をにんまりと吊り上げて俺を睨みつけた。やりましたね、今、撃ちましたね。ならならこっちもお返しです。体を起こし、両手をでこぴんの形にすると、味噌舐め星人は小さな掛け声と共に俺の体のそこらじゅうを弾いた。でこぴんなのに、それはやたら俺の上半身に当たった。いい加減にしろよと、俺が仕返しに彼女の額に本当のでこぴんを食らわす。すると、彼女はますますもって嬉しそうにその顔をゆがませて、俺の体をその細くて華奢な人差し指でと弾くのだった。