「味噌舐め星人の奉告」


 それから俺と味噌舐め星人と店長と醤油呑み星人は、いいともなんてそっちのけで前に居酒屋つぶれかけに飲みに行った時の話をした。醤油呑み星人が真っ先に文句を言い、あんなところに女性を連れて行くなんてどうかしていると、俺の気持ちを熱のこもった感じで代弁してくれた。男の俺ならばともかく、女性にはっきりと文句を言われてしまっては、流石の店長も弁明のしようがない。なまじ、太縁のやぼったい眼鏡さえかけていなければ、そこそこに美人さんな醤油呑み星人に面と向かって言われたのは、惚れ性の彼にとっては相当堪えたことだろう。力なく肩を落とした店長に、けれども最近はあの店も少しは愛想が良くなったと思うと、フォローを入れる。料理の腕はどうかしらないが、愛想の良いアルバイトも雇ったことだし、板前の心がけ次第では、まぁそのうちまともな居酒屋になるんじゃないだろうか。俺がそう言うと、じゃぁ少しはマシになったか確かめるためにも、また今度連れて行って貰わなくっちゃねと醤油呑み星人が言った。意味が分からない、一筋だって理屈も通っていない。つまるところ、出来合い物で良いから店長に晩飯を奢らせたいのだろう。醤油呑み星人の腹は食うに困ることはないが、気を使う程度に貧乏な俺には良く分かった。そして、そんな魂胆にまるで気づく様子もなく、そう、それじゃぁまた今度皆で飲みに行こうかと、満面の笑みで応える店長の精神構造は、俺にはちょっと分かりそうにもなかった。
 ねぇ、ねぇ、お兄さん。お兄さん。テレビの中にミリンちゃんが出てますよ。ミリンちゃんが呼ばれたようですよ。話に上手く混じることができず、一人テレビを見ていた味噌舐め星人が、片方の手で俺の袖を引き、もう片方の手でテレビを指差した。テレビのCMでせいぜいのミリンりゃんが、いいともになんて出れるわけがないじゃないか。それでもしつこく味噌舐め星人が俺の袖を引くので、無視するわけにもいかず、見ないわけにもいかず、俺は仕方なく店長たちとの話を中断すると正面のテレビを覗いた。すると、確かに味噌舐め星人の言ったとおり、ミリンちゃんの無邪気な作り笑顔がマッキントッシュのディスプレイに、これでもかとばかりに拡大表示されていた。
 どうやら、ビネガーちゃんからのつながりでテレフォンショッキングに呼ばれることになったらしい。詳しい経緯は見ていないのでなんともだが、ビネガーちゃんとミリンちゃんが芸能界的に友人である、ということは確かなのだろう。ミリンちゃんとそう変わらない年齢に見えるビネガーちゃん。ミリンちゃんとそう変わらない格好をしているビネガーちゃん。後ろに置かれた造花も、一番大きいのはミリンちゃんのスポンサーの会社なビネガーちゃん。なるほど、ミリンちゃんのスポンサーである食品会社は、ミリンだけでなくたしかにお酢も作っていた。つまりだ、ビネガーちゃんもまた、ミリンちゃんと同じ方向性で、食品会社に作られたキャラクターというわけだ。
 はい、もしもしお電話変わりましたなのです。生電話に出たミリンちゃんは、なんだかとても不機嫌そうだった。今にも俺の足元が痛み出しそうになるくらい、不機嫌そうな声をしていた。写真と違って無愛想な子ねと、醤油呑み星人は言ったが、どちらかといえばミリンちゃんの素はこちらだった。