「店長、管理職らしいことを言う」


 しかし、勝手に病気になって勝手に休むようなバイトはうちの店にはいらないのだ、よって君は今日限りバイトをクビだぁっ。感心したのもつかの間すべてをぶち壊すように店長は叫ぶと、さも勇ましい顔つきで俺を指差した。なんとなくだが、彼が本気で言っている風に思えなかった俺は、いつものように彼を鼻で笑うと、心底どうでもいい感じに受け流した。いいのかい君、明日からどうやって食べていくつもりなんだい、バイトクビになっちゃうんだよ。別に俺はそれでも構いやしないよ、それであのコンビニが立ち行くんならねと、さらりと言ってのけた。どう考えても、どれだけ考えても、俺が居なくなってあのコンビニがうまく回るとは思えなかったし、ただでさえA子ちゃんが抜けた穴を埋めるのに大変なこのタイミングで、俺を辞めさせるとは思えなかった。仮に、辞めてしまったA子ちゃんの代わりに、俺の前に座っている醤油呑み星人が、新しいバイトとして店に入るとしても、だ。
 大丈夫さ、なんと言っても今日からこの彼女がうちの店で働いてくれるからね。A子ちゃんや君が居なくても彼女一人居れば百人力ってものさ。そういうこと、と醤油呑み星人は涼しげな顔で俺に言った。それが、本気で俺を馬鹿にしているのか、それともここぞとばかりにムキになって俺をからかおうとしている店長に向けられたのかは分からない。お兄さん、お仕事クビになっちゃったんですか、それじゃぁこれから毎日お家に居られますねと、能天気なことを言う味噌舐め星人。本当に彼女と毎日一緒に家に居れるなら、それで無事に一生暮らしていけるなら、俺としてはそれでもいいのだが、生憎、現代社会は若者の怠惰な生活に肝要ではないし、資本主義は働けるのに働かない人間を生かしてくれるほど優しくもなかった。どいつもこいつも人の失職を簡単に言ってくれる。そういえば、前にもこんなことがあったな。
 あの時の騒動を思い出して俺がため息をつくと、どうやら俺が職を失って困ったと勘違いした店長が、満足そうに顔をゆがませた。困るだろう、困るよね、けどまぁ君がどうしてもって言うなら、雇ってあげないこともない。ただし、待遇はあまりよくないよ。普通のサラリーマンのように、土日に休みはまず取れないし、ボーナスだってあまり出ない。今は僕の裁量で雇っているからあの店に居られるけど、これからは上の人の声ひとつでどこに飛ばされるか分かったもんじゃなくなる。それでもいいかい、それでもなるかい。福利厚生だけはしっかりしてるよ、それだけは保障するけれど。どうする。
 飛ばされるって言われても、どうせ近隣の店くらいでしょう。まさか県をまたいで違う店に配属ってことはないでしょう。なんとなく、店長が俺をからかおうとした理由というか気持ちが分かった気がした。なるほどそうか、ついに本社から返事が来たってわけか。この事実には俺も少しは驚いた。
 本当はね、昨日言おうと思ってたんだけどね、というか昨日から正社員扱いだったんだけどね、まぁ、一日目から病気で休むってのも酷い話だろう。僕がうまくごまかしといたから、さ。それじゃぁ、これからよろしく頼むよ、君。頼りにしているんだから、と、店長は俺に手を差し伸べた。病気、うつりますよと皮肉を言ってから、俺は彼の頼りない右手を握り返した。