「店長、管理職らしいことをする」


醤油呑み星人が袋から弁当とお茶を取り出し、店長がちゃぶ台と座布団をセットし、俺が弁当とお茶が置かれたその前に座る。それでもう昼食の準備はすっかり完了してしまった。さぁさぁ遠慮せずに食べてくれと、これでもかとこちらに善意のまなざしを送る店長に、実は先ほど朝食を食べたばかりでさほどまだ腹が減っていないとは、流石に俺も言えない。しかたなく、俺はビニールの包装から割り箸を取り出すと、しぶしぶその裂け目に指を入れて半分に割った。しょうが焼きスタミナ弁当。うちのコンビニで一番の人気メニュー。棚に並ぶやすぐに売り切れ、昼前にはまず残っていることのないその弁当が、こうして見舞いの弁当として出てくるというのは、それだけ店長が気を使ってくれたということだろう。その心遣いを、もっと病人の胃袋の方に向けてくれればいいのに。俺は病んだ胃に酷くもたれる、冷たいしょうが焼きを頬張りながら、店長のどうしようもない能天気さを恨んだ。
 あら、アンタいつまで寝てるのよ、もうお昼よ。相変わらずだらしのないわね。ほらっ、起きなさい。気がつくと味噌舐め星人の前に座った醤油呑み星人が、味噌舐め星人の肩を揺らして居た。あぁ、いいよ、そいつ昨日俺の看病で疲れてるんだ、しばらく寝かせておいてやってくれ。俺は、味噌舐め星人を起こそうとする醤油呑み星人をすぐに止めたが、どうにも醤油呑み星人は俺の言葉なぞ聞こえないようで、しつこく味噌舐め星人の肩をゆすり続けた。やがて意識を取り戻したのか、布団に仰向けで倒れていた味噌舐め星人は、うぅんと唸ってもぞりと寝返りを打った。そして漫画や小説のお決まりのように、あと五分、あと五分だけ寝かせてください、お姉さんと、見事に寝ぼけてみせた。そんなこと言ってたらいつまでたっても起きないでしょう。醤油呑み星人は強引に味噌舐め星人を引き起こすと、きつけとばかりに味噌舐め星人の桃色をした頬を、なんともこなれた様子で軽く叩いた。
 あぅ、おはようございます、お姉さん。今日のご飯もなめ味噌料理ですか、お姉さんの料理は美味しくて大好きです。あれ、あれ、なんでお兄さんも居るんですか。おかしいですね、おかしいですよ。おかしいのはアンタの頭の方よ、いつまで寝ぼけているの、と醤油呑み星人が追撃を頬に入れる。それでようやく意識をはっきりさせたらしい味噌舐め星人は、あれ、あれ、どうして貴方がここに居るんですか。どうして醤油呑み星人さんが居るんですか。
 どうしてと言われても、状況を説明するにはどうにも回りくどくなりそうなので困る。どう言ったものかと俺が考えあぐねいていると、あれあれ、前にご飯をご馳走になったおじさんも一緒に居ます、どうしてですか、なんでお兄さんと私のおうちに居るんですかと、起き抜けに随分と店長に対して失礼なことを言ってくれた。名前くらい覚えてやってやれよ、どうにも店長にとって味噌舐め星人は鬼門らしい。それでも、底抜けにお人よしなのか、それとも女にだらしないのか、店長は嫌な顔ひとつせず、今日はね病気で仕事を休んだお兄さんのお見舞いに来たんだよと店長は答えた。これでも管理職だからね、こういう時にはちゃんとフォローしてあげないと。まさか店長からそんな店長らしい言葉が出てくるとは思いもよらず、俺はとても驚いた。