「味噌舐め星人と品書」


 通されたテーブル席は畳一城もないほど狭く、俺たちは肩を寄せ合うようにしてそこにこじんまりと座った。暫くして店員からメニューが届けられ、俺の隣に座った味噌舐め星人が、喜び勇んで受け取るとすぐさまそれをテーブルの上に開いた。はたしてそこに書かれてあったメニューは、ちょっと普通には想像の付かないような物ばかりだった。もっとも、そのメニューの異常性は、店内のいたるところに貼り付けられたPOPなどで薄々感づいてはいたのだが、それでも俺とミリンちゃんはそれを見て思わず唸ってしまった。
 なんですかこれ、最初のほうはまともっぽいメニューだけど、後に行くほどどんどん変なことになってます、大変な事になってます。サボテンのチャーハンに抹茶スパゲティ、甘口麻婆って。無理ですこんなの、どんな味か想像できないです、お兄ちゃんさんこの店大丈夫なんですか。大丈夫じゃなかったらこんなに人は来ないさ、と俺は不安そうにこちらを見つめるミリンちゃんに行った。ミリンちゃんのそんな表情を俺は久しく見た事がない。ミリンちゃんはクリームソーダが好きだからこれにしておくと良い、そう言って俺がメロン味のスパゲティを指差すと、そんなの食べれないです、いや、食べるかと叫んで机を叩いた。飲食店に入って食べるかなんて叫ぶのは正直どうかと思ったが、ミリンちゃんの焦りっぷりが面白かったので注意はしなかった。私はこれを頼みます、なので貴方はこれを頼みませんか。ミリンちゃんに構うのに精一杯で、俺はメニューも確かめずにいいよと空返事をした。
 そうして俺たちのテーブルに運ばれてきたのは、味噌味のピラフに、味噌仕立てのスープスパゲティだった。流石は味噌の本場である、匂いだけは美味しそうである。流石は味噌舐め星人である、何の躊躇もなくこんな得体の知れないメニューを頼んでくれる。勘弁してくれよと俺が頭を抱えると、ミリンちゃんが愉快そうに声をあげた。そうやって空返事なんかするからですよ、お兄ちゃんさんはそんなだから駄目なんです、ねぇお姉ちゃんさん。俺とミリンちゃんが横を見ると、味噌舐め星人はもうピラフを口いっぱいに頬張っていた。へっ、なんですか、ミリンちゃん、今何か言いましたか。
 味噌スープスパ味噌煮込みうどんのような味がした。普通に美味しかったが、できる事なら普通にうどんで食べたいと俺は思った。味噌ピラフは、味噌味のピラフとしか言いようがなかった。ちょっと味付けが豪快な気もしたが、炒めるだけのピラフに繊細な味を求めるのはそもそも間違っている気がした。とにかくそんなわけで、俺と味噌舐め星人はなんとかその味噌料理地獄――味噌舐め星人からしたら天国なのだろうが――から生還した。威勢良く俺をからかった後、本日三本目のクリームソーダを追加注文したミリンちゃんだけが、無様に遭難してしまった。この店で出される料理は、味付けがおかしいだけでなくその量も半端なかった。ミリンちゃんの前に出されたクリームソーダはグラスではなくジョッキに注がれており、アイスクリームが箱からごっそり落としたかのように、こんもりと乗っかっていた。もう無理です、ギブアップです、リタイアです。冷たい物を食べ過ぎたからか、それとも残してしまうのが忍びないのか、青い顔をしてミリンちゃんは言った。