「味噌舐め星人の立腹」


 私たちを置いてきぼりにしてあの女の人とどこに行っていたんですか。二人っきりで何してたんですか。酷いです酷いです、貴方って人は本当に酷い人です。人でなしです、私が居るのに、他の女の人とどっかに行ってしまうなんて、人でなしです。待ち合わせ場所である商店街の広場に俺がたどり着くと、いきなり味噌舐め星人が鬼の様な形相でそんな事を言ってきた。知らぬ間に置いてきぼりにされたのだから怒るのも無理はない。隣に立つミリンちゃんも、どことなくだがいつもより増して不機嫌そうに見えた。彼女達の怒りをどう静めたものだろうか。俺はとりあえず落ち着いて話をする為に、どこか店に入ろうと彼女達に提案した。しかし、いやしん坊の味噌舐め星人にしてはめずらしく、というよりも、ついさっきまで曲がりなりにも喫茶店にいたこともあって、味噌舐め星人はきっぱりと嫌ですと俺に向かって言い放った。貴方なんてもう知りません、私は一人でお家に帰りますから。味噌舐め星人のあまりに突き放した言い草に、帰れるものなら帰ってみろと俺は言いたくなった。だが、そんな事を言っても今の味噌舐め星人には火に油を注ぐ結果にしかならないだろうし、そもそも本当に一人で家に帰ろうとして迷子になられたら、それはそれで困るのは俺だった。やれやれ仕方がない、ここは一つ彼女が好きな味噌で釣る事にしよう。その前に、なんと罵ってくれても構わないが、人でなしとはこの場合言わないだろうと、俺は冷静に味噌舐め星人を注意した。じゃぁ、じゃぁ、と口ごもって考えると、味噌舐め星人はこの薄情者と叫んだ。また少し違う気がしないでもないが、人でなしよりは幾らか聞こえが良いだろうと、俺はその呼び方で妥協する事にした。
 美味しい味噌カツを食べに行くのも良かったが、何度も何度も飲食店を出入りしたおかげで、商店街の外れにあるちょっと有名な味噌カツ屋で食べるには、財布の中が心もとなくなっていた。幸いな事に、フリー切符を買っていたので移動手段には困らなかった。なので、俺は一旦この商店街から離れることにし、三駅ほど離れた所にある少し変わった味噌料理が味わえる店に行く事にした。味噌料理と聞くや途端に機嫌の良くなった味噌舐め星人は、そのお店ではどんな味噌料理が出るのですか、その味噌料理は美味しいのですかと、移動中何度も何度もそれはもう五月蝿いくらいに俺に聞いた。いけば分かるさと、味噌舐め星人が聞くたびに何度も何度も俺は言った。
 けちなお兄ちゃんさんが、ご飯を食べに連れてってくれるって言うからついてくれば、なんですかこの古臭い感じの喫茶店は。なぜだか知らないが商店街で別れずに俺たちについてきたミリンちゃんは、目的の店につくなりそんな失礼千万な事を言った。しかし実際の所ミリンちゃんの言うとおり、確かにその店は随分と古臭いように俺には見えた。なかなか俺の地元のほうでも見かけられないような、随分とくたびれた外観の喫茶店だった。もっとも、変わっているのは店だけではない。店の周りにはなぜかサボテンがまるで垣根の代わりのようにどっさりと生えていたし、駐車場にはどう見ても不釣合いに大きい看板が立っていた。そんな異様にも関わらず、そして平日にも関わらず、駐車場が満車状態なのがこれまた俺の瞳には異様に映った。