「塩吹きババアは世話をした」


部屋に帰ると塩吹きババアが卓袱台の前に座っていた。味噌舐め星人も一緒だった。二人はまるで仲の良い姉妹の様に同じテレビを皆がら笑っていた。まるで俺が帰ってきたことも分からないような、そんな風だった。姉妹のようだと俺は思ったが、なるほど見れば見るほど二人は良く似ていた。顔の形や肌の色、身長やプロポーション、なんかは別にこれと言って似ていなかった。なんといっても、味噌舐め星人は黒髪だったし、塩吹きババアは白髪だった。味噌舐め星人は生気の漲る薄っすらとピンクがかった肌をしていたけど、塩吹きババアは真っ白だけれど良く見るとかさかさの乾いた地面のような肌をしていた。唯一にて居るのは、二人とも恥かしいほど胸が無いことくらい。
「おい、若者。お前また私について失礼な事を思ったであろう。まったく、あれだけ躾けてやったのにまだ思うか。塩、吹きかけてやる」
 塩吹きババアはふぅと俺に塩を吹きかけた。相変わらず彼女の口から吹いてくる塩はたいへん美味しかった。俺は唐突に白いご飯が食べたくなったし、浅漬けを作りたくなった。どうやら、やっと俺が帰ってきたことに気づいてくもらえたらしい。また私に失礼な事を思いましたね。まったく、まったく……まったく、失礼な人です。味噌、吹きかけてやる。味噌舐め星人は塩吹き星人をまねようとしたらしかったが、何から何までできていなかった。俺を罵る言葉だって上手く見つけれらなかったし、味噌の吹きかけ方も分からないようだった。もっとも俺にも味噌の吹きかけ方なんて分からない。
 なんとなく分かってくれただろうか、彼女達は雰囲気的にどこか似ているように俺には感じられたのだ。同じような性格というのとはまた違うかもしれない。味噌舐め星人と塩吹きババアは、言うならばクラスの仲良し女子グループだ。同じ趣味や同じ思想の元に集まった同年代のグループ。性格や容姿など細かい所個々で違えど、同じ内容の話題で盛り上がれる、そんな学校と言う閉じられた世界で思春期の少女達が見せる親密さを、彼女達は俺に感じさせた。ノリとでも言えばいいのか。やはり彼女達はとても、良く似ているなと、俺は二人が顔を見合わせてケタケタと笑う姿を見ながら思った。
「若者よ、お前、どうして私がここに居るんだという顔をしておるのう。なに、ちょっとお前さんを脅かしてやろうかと部屋に立ち寄ったら、彼女が退屈そうにしておったのでのう、話し相手になってやっただけじゃよ」
 そうなのかと俺は味噌舐め星人に尋ねた。そうなのじゃよと味噌舐め星人は塩吹きババアのマネをして答えた。また二人はケタケタと顔を見合わせて笑った。なるほど俺がいないうちに二人はだいぶ打ち解けているらしい。やれやれ、俺は少し頭が痛くなった。今朝方あんなにお化けを怖がっていた味噌舐め星人が、そのお化けと顔をつき合わせて大笑いしているのだ。自分を驚かして怯えさせていたお化けに親近感を覚えているらしいのだ。
 お前、そいつが誰だか分かってるのか、お前を脅かしたお化けだぞ、と、俺は味噌舐め星人に言った。またまたまたまた、真昼に出るお化けなんていないです、お姉さんはお化けなんかじゃないですよ、本当に失礼ですね貴方って、貴方って失礼です。味噌舐め星人はそうけろりといってのけた。