「味噌舐め星人の激励」


 襲っていたらどうなっていたのだろうか。そこで、俺は目を醒ました。夢なのか現実なのか、まったく判別はつかないが、窓から差し込む明るい光が、今自分の存在している時が朝である事を告げていた。もう潮吹きババアの姿と気配はすっかりと部屋の中から無くなっていて、俺は少し気が楽になった。
 味噌舐め星人は自分の布団の中で膝をおって眠っていた。可愛らしい熊のパジャマから涎と生足と不釣合いな黒いショーツの生地が覗けたが、俺は不思議と彼女に昨日のような劣情を催すことはなかった。やはり昨晩の塩吹きババアとのやりとりは夢ではなかったのだろうか。俺は淫夢ならば穿いているパンツがガビガビになっているだろうと自分の股間を弄ったが、そこには綺麗に舐め取られたような肌触りの陰茎が力なくぶら下がっていた。どうやら夢ではないらしい、とは言い切れない。はたして塩吹きババアが俺の股間の精液を全て舐め取ったのかどうか、それを調べる手立てもまたないのだ。俺の股間を舐めてしょっぱければ、あるいはそうなのかもしれないが、そんな情けない事をしてまで俺は確認したいとは思わなかった。なにより、あれはやはり淫夢で、夢精しなかっただけなのではと思いたい節があった。
 味噌舐め星人がもぞもぞと布団から這い出してきた。長い髪を所々でほつらせて味噌舐め星人は間の抜けた大あくびをして俺を愉快な気分にしてくれた。パジャマの袖で目尻を擦ると、彼女は俺におはようございますと小さな声で言い、そしてまたこてりと自分の布団に倒れこんだ。どうやら、ご飯ができるまで二度寝をするつもりらしい。やれやれまったく世話のかかるお嬢様だな。けれども、彼女を台所に立たせる訳には行かなかったので――彼女の料理は局地的台風を台所に呼ぶのだ、などと小洒落た言い回しなどを考えながら、俺は台所で味噌汁を作るために鍋でお湯を沸かし始めた。
 今日の朝食はわかめの味噌汁にうめぼしと玉子焼きだった。あまり代わり映えのしない朝食だったが、今日は小皿に載せた玉子焼きに醤油をかけていなかった。昨日味噌舐め星人が、これは味噌じゃなくて醤油がかかっているから食べれませんとかなんとかのたまったからだ。なので、皿に盛った玉子焼きに今日は醤油をかけなかった。代わりに甘辛い八丁味噌を皿の横に盛っておいたのだ。これを玉子焼きにつけて食べると思うと少しぞっとしたが、意外と美味しいのかもしれないという期待も、俺の中には少なからずあった。けれどもまずは味噌舐め星人が一口食べてからだろう。俺は味噌舐め星人の様子を伺ったが、躊躇無く彼女は玉子焼きに味噌をつけて食べた。反応はまぁまずまずだった。八丁味噌なのが良かったのだろう、意外と美味しい。
 どうやら塩吹き成人は精気と一緒に生気も奪っていったらしい。どうしたんですか、顔がやつれていますよ、と味噌舐め星人は俺の顔をいぶかし眼に見つめながら言った。正直に昨晩の出来事を言ってやったら彼女はなんて顔をするのだろうか。やはり俺を軽蔑するだろうか。素直に言う事はできず、俺は彼女のなぜなぜ攻撃を適当にあしらって交わすことに決めた。けれどもあまりに味噌舐め星人がしつこく聞いてくるので、俺は事実少しを織り交ぜて、昨日妖怪を見たんだと話した。途端彼女はぴょいと布団に飛び込んだ。