うぃきぺであ地獄片「ジェミニ計画」


 その日、僕は特に何をするでもなく、放課後の校庭で木の下に座り込んで自販機で買ったジュースをちびちびと飲んでいた。別にそうすることに特に意味なんて無くて、ただそうしたいと思ったからしていただけなのだ。ちょっぴりとは何か面白い事が起きないかと期待するような事もあったけど、まぁそんな事は起こる分けないよねとはなから諦めて、僕は炭酸の弱いコーラを飲んでたんだ。
 けれどもまぁ、百分の一くらいの確率で面白いことってのは起こるもんだね。突然に僕が居る辺りが暗くなったと思うと、がさごそと頭上で何かがうごめいてる音がしたんだよ。見上げると背にしている木にパラグライダーが絡まってるのが見えて、宙ぶらりんになった女の子と、そのスカートの中身がゆれてていたんだ。白いパンティだった、股に食い込んでいて最高に興奮したね。
 僕は顔の見えない彼女に、大丈夫かいと声をかけた。すると気丈にも彼女は大丈夫だよと僕に返事を返したんだ。ならわざわざ下ろしてやる必要もうないかと僕は暫く彼女と彼女のスカートの中の揺れるパンティを見つめていた。けど、いい加減遠目に覗くのも飽きたので、ねぇ、随分と降りるのに手間取っているようだけれど、本当に手をかさなくて大丈夫かいと、彼女にもう一度聞いた。宙ぶらりんの彼女は、暫く間を置いて恥かしそうにしてやっぱり助けてくれと僕に言った。幸い僕は木登りなんかは得意だったので、木をついついと登るとぶら下がっている彼女に手を差し伸べて、木の幹の方へと引き寄せた。それで、パラグライダーを彼女から脱がせると、途中ちょっと危なっかしかったけれども、二人で地面にたどり着いた。
「ねぇ、君、いったいなにをしていたのさ。パラグライダーするのは良いけれど、それって制服だろう。制服でパラグライダーなんてするものなのかい。もっと適切な服装があるんじゃないの?」
 僕はパンパンとスカートをはたいてほこりを払う彼女に聞いた。活発そうな感じがするショートヘアーに、こげ茶色した髪の彼女は、しばらく僕の質問を無視して体のほこりを払っていた。そして、あらかたら払い終えると、僕のほうにそのまるっきり光のない瞳を向けた。死んだ魚のような目というのだろうか。僕には、彼女の眼に対する形容が上手く思いつかなかった。とにかく、彼女は不思議な目をしていて、ずっと見ているとこっちまでそんな目をしてしまいそうになる、彼女はそんな印象を僕に与えたのだった。
「なにって、訓練よ。ジェミニ計画よ。宇宙に行く為の訓練をしていたの。それとね、制服がユニフォームなのは仕方ないの。私の部は文化部だからね、ユニフォームは制服なの。ユニフォームが変わってる文化部なんてそうそうないでしょう」
「あるにはあるんじゃないのかな。例えばほら、茶道部とか華道部とか」
「作動部? 可動部? そういうのはパイロットにでも言ってあげて、船外活動員の私には関係ないわ」
「いや、船外活動員こそこういう事は知っていなくちゃいけないんじゃないの? よくわかんないけどさ。あれ、もしかして、君って宇宙とか好きなの? ふたつのスピカとか、プラネテスとか読む?」
「読むわよ、ウィキペディアでさわりくらいわ。悪いけど、ちょっと邪魔しないでくれるかしら。私はね、忙しいの。ジェミニ計画で宇宙に行かなくちゃ行けないの。もたもたしてると、後発のアポロ計画に先を越されて月に行かれちゃうの。だからこれでね、さよなら、バイバイ」
「ねぇ、ジェミニ計画って言うからには、二人でやらなくちゃいけないんじゃないの? もう一人はどこに居るのさ?」
 僕の質問をまるっきり無視して、空から落ちてきた活発そうな彼女はすたすたと校舎の方へと歩いていった。ジェミニ計画ってなんだろうか、後でウィキペディアデ調べてみようかなと、僕はプラプラと頭上で揺れているパラグライダーを見上げながら思った。


 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%9F%E3%83%8B%E8%A8%88%E7%94%BB