「味噌舐め星人と夜道」


 味噌舐め星人と俺はほくほくの状態で夜道を歩いていた。水銀灯がうっとうしく夜を照らしている町を俺たちはほくほくと家へと帰っていた。コーヒー牛乳が思いのほか気に入ったのか、味噌舐め星人の機嫌はずいぶんと良くなっていた。風呂に無理矢理入れられた猫か犬の様に不機嫌だった味噌舐め星人は、きれいさっぱり彼女の中から消えてなくなっていた。まったく、現金な奴である。俺たちはほくほくのまま並んで歩いた。
 しばらくすると自販機が見えてきた。これはなんですかと味噌舐め星人が興味深そうに聞くので俺は、それはさっきお前が飲んだコーヒー牛乳なんかを売っている装置だよ、と彼女に説明した。すると、味噌舐め星人は再び目を輝かせて俺を見つめ返してきた。何かを求めている目だった。俺はつくづく説明のしかたを間違えたなと後悔した。コーヒー牛乳なんかを売っている装置だよなんて、そんな事を言えば精神的に子供な味噌舐め星人が、コーヒー牛乳を飲みたいとだだをごねるであろうことは、想像がつくだろう。
 味噌舐め星人はじっと俺の顔を見つめて動かなくなった。味噌舐め星人の黒目がちな瞳が俺と俺の背後に立っている水銀灯を映し出していた。けれども俺はその程度で流されるような男ではなかったし、俺の財布には自販機で飲み物を買う余裕なんてもうほとんどなかった。なので、味噌舐め星人が動かなくってもお構い無しに、俺はとっとと家に帰ることにして自販機の前から歩き出した。味噌舐め星人は、暫く自販機の前に立ったままかってくれ光線を俺に向かって浴びせてきたが、やがてそれが無駄だと分かると今度は買って買って音波を俺にあびせ、さらにそれすらも駄目だとわかると俺にすがり付いて自販機の前まで連れ戻そうとした。けれども、味噌舐め星人の力は見た目どおりに女の子程度しかないので、俺はずるずると味噌舐め星人を引きずりながら我が家へと帰ることができたのだった。
 玄関前でへたり込んでしまった味噌舐め星人は、またしても銭湯から風呂場から出てきたときのような不機嫌な表情になっていた。味噌舐め星人に拗ねられると非常に厄介なので、俺はしかたなく冷蔵庫から牛乳を取り出すとコップに次いで、コーヒーの粉末と砂糖を入れてコーヒー牛乳を造ってやった。味噌舐め星人は、面食らったようにびっくりしていた。びっくりしていて、なるほど、やっぱりその粉末は味噌だったんですね、その味噌はコーヒー牛乳を作るための味噌だったんですね、やっぱりこの星の文明は凄いです、と訳の分からない事をのたまった。そういえば、味噌舐め星人が来て間もないころ、だましてコーヒーの粉末を舐めさせたことがあったっけか。そんな事を俺が思い出しているうちに、くぴくぴぷはぁーと味噌舐め星人はコップのコーヒー牛乳を飲み干してしまっていた。
 うまい、もういっぱいと味噌舐め星人は俺に要求してきたが、それはできない話だった。そうやって寝る前に水分とって、また漏らされたらたまったもんじゃないからな。俺がそういうと、味噌舐め星人は真っ赤になって怒りだした。一昨日と昨日はたまたまなんです。いつもはそんな事はないんです。
 頬を膨らませる味噌舐め星人は、女の子特有の良い匂いがしていた。