「味噌舐め星人の戦闘」


 味噌舐め星人と過ごす休日はあっという間に過ぎてしまった。久しぶりの休日だというのに、したいと思っていた事をほとんどなにもできないまま終わってしまった。けれどもしたいことが出来ないほど充実している休日というのもそれはそれで悪くはなかった。女の子と戯れるという内容もさることながら、その戯れた女の子が美少女であるという事も重要だった。しかし、やっぱりどんなに可愛らしい女の子に見えても味噌舐め星人は味噌舐め星人で、どことなく漂ってくる味噌舐め星人の味噌臭はいかんともしがたい。味噌舐め星人は、味噌汁の匂いではなく味噌の臭いがしてくる女の子だった。
 あまりにその味噌の匂いがきつくなってきたので、ちょっとついて来いと俺は味噌舐め成人を連れて夜の町に出た。夜の町は夜の町なのでたいした灯りはなかった。明滅を繰り返す水銀灯の下を何度も潜りながら、俺と味噌舐め星人は夜の町を歩いていった。味噌舐め星人はのんきなもので、どこへ行くんですか、楽しみですね、面白いですねと、終始ご機嫌だった。俺は手に二人分のバスタオルと手ぬぐい・石鹸ケースを持って居たのだが、味噌舐め星人が俺たちの向かっている場所が何処か気づくことは最後までなかった。
 銭湯についた俺は、番頭のおばちゃんに味噌舐め星人の事を頼むととっとと男湯に入った。番頭のおばちゃんとはこの町で暮らし始めてからの付き合いだ。味噌舐め星人を任せても問題は無いだろう。けれども、一応念のため味噌舐め星人の事は、俺の妹だと説明した。随分似てない妹だねと、おばちゃんは鋭くつっこんだがあえて俺はそれを無視して男湯の暖簾をくぐった。不安そうに味噌舐め星人がこちらを見つめているのが分かったが、それも無視した。なに、何も犬の様に丸洗いされるわけじゃないのだ、心配する事はない。そう思って風呂場に入った矢先、味噌舐め星人の暴れる声が聞こえてきた。やだやだやだやだ、脱ぎたくない、エッチ変態スケベ。女の人なのにスケベです、いやいやいやいや、脱がさないで、見ないで見ないで、うわぁん。そう言えば味噌舐め星人はここに来る前に、家で胸にお椀を入れていたっけな。なるほど、それは服を脱ぎたく無いだろうなと、俺は終業間近の為かすっかりぬるくなってしまった湯に浸かりながら思った。
 風呂から出ると半泣きになった味噌舐め星人が待ち構えていた。こんなの聞いてません、ちっとも楽しくなかったです、酷いです酷いです。べそをかきながら味噌舐め星人は大声で俺に訴えた。すると、番頭のおばちゃんが苦笑いしながら、俺にいちご牛乳とコーヒー牛乳を手渡した。何が言いたいのか俺がいまいち分かりかねていると、ぴたりと味噌舐め星人の泣き声が止まっているのに気がついた。なるほど、味噌舐め星人はコーヒー牛乳に首っ丈のようだった。コーヒー牛乳を初めて見る味噌舐め星人には、それは牛乳ではなく味噌汁にも見えたのかもしれない。やれやれと、俺は味噌舐め星人にコーヒー牛乳を与えてやった。味噌舐め星人はそれはもう喜んで、ピョンピョンと先頭の入り口で跳ね回った。その喜びっぷりがどうにもむず痒くって、俺が鼻頭を掻いていると、番頭がはい二百十円ねと俺に手を差し出した。
 結局、味噌以外の物を飲んでも味噌舐め星人は死ななかった。