「味噌舐め星人の賞賛」


 しこたま味噌舐め星人にげんこつを食らわすと、俺は起きたばかりだというのにすっかりと疲れてしまって、また座布団の上に横になった。味噌舐め星人はふぇええんとさも可愛らしい泣き声をあげていたが、ひねくれ者ですれてる俺にはそんな味噌舐め星人の攻撃はちっとも効かなかった。それは蚊も殺せないジャブ程度のアピールだった。その内、本気でこの味噌舐め星人はこういう子供っぽい反応しかできないのだと悟ったので、俺は拗ねる味噌舐め星人に謝った。なんだか子供をあやしているようで、複雑な心境だった。味噌舐め星人は確かに精神的に子供っぽいが、外見的にはけっして子供っぽくはないのだ。言うなれば美少女なのだ、美女と少女の中間の美少女なのだ。そこには歳相応の知性と言う物があってしかるべきなのだが、どうやら味噌舐め星人の知性は、地球人のそれと比べて成長が遅いらしかった。あるいは、彼女だけが特別に子供っぽいのかもしれない。
 一つ味噌舐め星人の精神年齢を測ってやる事にした俺はテレビをつけた。お昼過ぎの定番、ドロドロとした人間模様を耽美に描く昼ドラと言う奴がやっていた。その昼ドラはそれはもう酷い昼ドラだった。義理の妹と関係を持ってしまった男に幼馴染の女が言い寄っていた。幼馴染の女に、男はどこまでも冷淡かつ鬼畜だった。終盤、明日への引きの場面では、義理の妹が実は血を分けた本物の妹だと言う事が告げられた。そして血の繋がっていない義母の毒牙が主人公に……。こんなものを見て喜ぶ主婦の姿が想像できない。冷静に分析すればキモイオタクどもがやっているゲームと代わらないじゃないか。あえて差があるとすればビジュアルだ。二次元か三次元かというだけだ。俺は、ビジュアル的な差こそあれ、人間と言うのは根っこの所で似た様な事を考えているのかもしれないな、と思った。まったく、やれやれである。
 なんて事を俺は昼ドラを見ながら考えていたのだが、味噌舐め星人はといえばまったくドラマなんか見ず、ゴロゴロと畳の上を転がっては俺の服を引っ張ったり、時々背中を引っかいたりして遊んでいた。どうやら、味噌舐め星人の知能では昼ドラを理解できないらしい。まぁ、それくらいのほうが見た目的にも似合っている気がしないでもない。続いて俺はチャンネルを変えて土九ドラマの再放送を味噌舐め星人に見せた。味噌舐め星人は今度はしっかり見入っていて、透明人間頑張れ、透明人間頑張れなどと涙ながらにテレビに訴えかけていた。俺もついつい懐かしくなって番組に見入ってしまい、気づくと窓の外はすっかりと夕闇に沈んでいた。なんだか激しく時間を無駄にした気がしないでもなかったが、味噌舐め星人が満足そうに涙をぬぐっているのを見ると、悪い気はしなかった。透明人間、そのうち借りてこよう。
 最後に俺はNHK教育にチャンネルを合わせた。NHK教育では俺の思惑通り、ちょうどアニメ番組がやっていた。味噌舐め星人はやっていたアニメをいたく気に入ったらしく、手を叩き腹を捩じらせてケラケラと笑った。やはり味噌舐め星人は子供っぽいとその様子を俺は眺めていた。不意にアニメの主人公が味噌料理を作り始めた。それは子供向け料理番組だった。気づけば、味噌舐め星人の期待に満ちた瞳が俺の方へと向けられていた。