「味噌舐め星人の降伏」

 もはや悪びれる事もなく、味噌舐め星人は俺の部屋のど真ん中にどっかりと居座ると、そっぽを向きながら何か言いたげな表情をしていた。そんなふてぶてしい表情ながらもなぜか足は正座だった。まるで一昔の映画かドラマに出てくる女房みたいな怒り方だと思ったけれど、味噌舐め星人は俺の女房でもなんでもないので、とくに俺は彼女に謝罪の言葉をかけるつもりはなかったし、むしろ彼女が俺のオムライスを食べた事を俺は許す気にはなれなかった。俺は、彼女を無視して台所に立つと、ケチャップまみれの皿を洗った。
 洗いながら、ふと俺はこれから彼女がずっと俺の家に入り浸るのだとしたら、何が居るのだろうかと考えた。できればすぐにでも出て行って欲しかったが、出て行けというほど俺は冷血人間ではなかった。俺は味噌舐め星人と違って非常に心が広いのだ。それに、可愛い女の子が家に居るというのはそれほど嫌な気はしない。それが理解不能な味噌舐め星人でなければ、こちらとしては大歓迎なのだ。しかし、彼女は味噌舐め星人だった、ケチャップの代わりにオムライスに味噌をかける味噌舐め星人だったのだ。味噌舐め星人と人類が分かりえあるのはもうちょっと先だろう。味噌について良く知っている日本人の俺がそのギャップに戸惑うのだからそれは間違いなさそうだ。
 味噌舐め星人に差し当たって必要なのは服だった。彼女の服、銀色のスウェットスーツは外を出歩くのに適した服であるとはとうてい思えなかった。それは非常に目立つだろう、味噌舐め星人でなくても目立つだろう、俺にはそう思えた。加えて、彼女にはそれ以外の服が無かった。俺の上げたTシャツしか彼女は着ていなかった、下には下着を着けていない、これは由々しき事態だ。犯すぞと散々驚かしておきながら、これは俺の精神衛生上よろしくない事態だった。味噌舐め星人が小柄なおかげで、俺のTシャツはすっぽりと彼女の恥かしい部分を隠してくれてワンピースの様になっていたのだが、それでもちょっとした拍子に中が見えてしまいそうでやきもきした。
 時間は充分あった。なので、俺は味噌舐め星人を連れて外に服を買いに行く事にした。行くと決めた。しかし、味噌舐め星人の機嫌を直すのはちょっと難しいようだった。ぷっくりと頬を膨らませて、彼女は俺の言葉を尽く無視した。俺が謝るまで彼女は絶対に首を縦に振らない覚悟だった。上等だと俺は少し乱暴に彼女の前に回りこんだ。そして、彼女の顔が他の方向にそれないように手で固定すると、その顔をじっと見据える。黒目がちな二つの瞳を見据えて、俺は、お前の服を買いに行くからついてこい、それじゃお前どこにも出れないだろ、と味噌舐め星人に強い口調で言った。それでも味噌舐め星人は俺の事を無視したので、俺はまた強く脅かしてやろうと思って彼女の股間に手を伸ばしたのだが、途端に彼女のつりあがった瞳の目尻から涙が溢れ出たのを見て、俺はそれ以上なにもできなくなり彼女から手を離した。
 どうにも部屋に居辛くなったので、俺はまた外に出ることにした。すると、何をやっても口を開かなかった味噌舐め星人が初めて口を開き、どこに行くんですかと尋ねてきた。夕飯の食材を買ってくると俺が答えると、味噌舐め星人は途端に立ち上がり、俺の後にぴったりとくっつとにっこり笑った。