「味噌舐め星人の反撃」


 新しい朝が来たのだけれどそれは希望の朝でもなんでもなかった。味噌舐め星人は相変わらず俺の部屋に居たし、味噌臭かったし、味噌汁臭かった。なんでこんなに部屋が味噌汁臭いのか、起きたばかりで頭がさっぱり回らない俺にはまったく訳が分からなかった。目やにと表面の乾燥により霞んでろくに見えやしない視覚情報を切り捨てて、鼻腔が感じ取る匂いだけで、俺は味噌汁でも味噌舐め星人が作ってくれているのかなと思った。思ったのだが、味噌舐め星人は俺の隣でまだすよすよと寝息を立てていた。実に可愛らしい寝息だった。味噌舐め星人は黒髪長髪の美少女なのだ。本当に、味噌舐め星人は黙っていれば実に可愛らしい女の子だった。その爪先から髪の先まで食べてしまいたくなるほど可愛らしい女の子だった。そんな女の子の股間の辺りにあるシーツが、少し浅黒く染まっている。それでどうやら、この味噌舐め星人と言う奴がやっぱり厄介の元でしかないという事を俺は再確認した。
 味噌舐め星人を俺はさっそく叩き起こした。俺の拳骨によって叩き起こされた味噌舐め星人は、自分がどういう状態になっているか全く気づいていない風だった。実際の所、まったく気づいていなかった。彼女はしばらく殴られた所を手で押さえ、頭を抱えて涙目になっていたものの、酷く乱暴に自分が起された事に気づくとご自慢の抗議に入った。なんて酷い事をするんですか、私は目覚まし時計ではありませんと彼女は言った。なので俺は、彼女の濡れた布団を指差して、ここはトイレじゃありませんと言ってやった。それで流石の彼女も今回は何も言い返せなくなってしまったようだった。
 俺はやれやれとため息をつくと、味噌舐め星人に布団を処理するように命令してから朝食を作り始めた。俺が朝食を作っている後で、味噌舐め星人は茫然自失したのか布団座ってぼうとどこかを見ていた。もしかして、ずっとそうしているんじゃ無いだろうかと俺が思った矢先、味噌舐め星人は立ち上がって布団干しに外へと出て行った。ちらりと見えた彼女の顔は、子供の様にくしゃくしゃに歪んでいたが、今回ばかりは子供のような事をする味噌舐め星人が間違いなく悪いとしか言いようがなかった。それでも、俺はなんだか悪い事をしたような気になってしまって、気づくと味噌汁に入れようと思っていた大根を、みじん切りにしてしまっていた。やってしまった事は仕方ない。俺はそのまま鍋の中にみじん切りの大根を放り込んでコンロに火をかけると、布団を干している味噌舐め星人を手伝いに部屋の外に出た。
 味噌舐め星人は布団を地面に放り出して、大家さんがアパートの庭で飼っている猫と戯れていた。戯れているのかと思ったら、実際は猫が食べている猫まんまをじっと眺めていた。なにしてるんだと言うと、とても美味しそうなのでつい見入っていたのだという。布団を干すのも忘れて見入っていたのだという。味噌がかかっていれば何でも良いのかと俺はほとほと味噌舐め星人に呆れてしまった。呆れながら、俺は仕方なく味噌汁臭い味噌汁星人の汁が付いた布団を竿に干した。味噌舐め星人はともすると、猫から猫まんまを奪って食べだしそうだったので、俺は彼女を部屋まで無理矢理連れ戻すと、みじん切りの大根の味噌汁を白いご飯にぶっ掛けて彼女に出してやった。