「味噌舐め星人の主張」


 彼女はとても可愛くて俺好みの女の子だったが、味噌舐め星人だった。実に頭の痛いことこの上ない味噌舐め星人だった。なので、あまり長い事一緒になると自分まで味噌舐め星人よろしく頭がどうにかなってしまいそうなので、ご飯を食べ終わると俺はすぐにバイト先に行こうと思った。思ったのだが、嬉々として口にねこまんまを掻き込む味噌舐め星人が、昨日と同じ格好であることに気づいてしまった。こんな事に気づくんじゃなかったと思いつつも、気づいてしまったからには聞くほか無い。俺は、おいお前その今着てる服以外に服持ってないのかと、味噌舐め星人に訊いた。すると、味噌舐め星人はねこまんまをたべながら、ふぁいと言って頷いた。銀色で彼女の体にピッチリと張り付いているスウェットスーツには、先ほど庭に干してきた布団と同じ、黄色い染みがべっとりと一面に染みついていた。
 やれやれ、と俺はため息をついた。こんな格好でいつまでも視界に居座られてはこちらが参ってしまうので、俺はどうにかして味噌舐め星人の服を調達しなくてはいけないなと思った。とりあえず、俺は箪笥の中からTシャツを取り出して味噌舐め星人に渡した。俺がバイトに行ってからで良いから、とりあえず着替えておけと言うと、味噌舐め星人は案の定俺に抗議してきた。彼女の星、味噌なめ星の味噌舐め星人の間では、その銀色で頭が悪いとしか思えない感じのスウェットスーツが正装なのだという。それを脱ぐと言う事は、裸で街中を歩くようなことなのだと言う。どちらかといえば、俺はその服で外を出歩く方が恥かしいように思えたのだが、味噌舐め星人はえらく真剣な表情だった。けれども、別に外を歩く事は無いのだ、恐らく味噌舐め星人は昨日と同じように、味噌を舐め舐め俺の部屋で怠惰な生活を送るに決まっている。だったら別に良いじゃないかと俺は彼女を説得しようとしたのだが、やっぱり彼女は聞く耳持たず。あまつさえ、そんなに私を辱めたいのですか、この変態、私の恥かしい姿をそんなに見たいのですか、この変態と俺を罵った。罵られたら、俺ももう黙っちゃ居られない。彼女から無理矢理スウェットスーツを引っぺがすと、泣いて懇願する彼女を一喝して黙らせた。そして、大人しくしてろよそうすりゃすぐ済むから、と、涙を瞳いっぱいに湛えた味噌舐め星人に近づくと、その腕を捻り上げた。捻りあげて、Tシャツの中に味噌舐め星人をすっぽりと入れると、俺は袖から手と頭を引っ張り出した。
 Tシャツを着た味噌舐め星人は相変わらず可愛かった。俺のあまりセンスのよくない俺のTシャツなんて着せてしまったら、途端に味噌舐め星人が不細工になってしまうのではないかと思ったけれど、それは思ったほど悪くはなかった。良く似合っていた。良く似合っていたが、どうにも先ほどと姿が違う気がする。心なしか少し胸が薄くなった気が、いや、少しなんてものではない、きれいさっぱり胸と言う胸が彼女からなくなっている。ふと思い調べると、スウェットスーツにはパッドが入っていた。寒々とこの世の終わりの様に咽び泣く味噌舐め星人を見て、おそらく味噌舐め星の正装だなんて味噌舐め星人が言ったのは嘘なのだろうなと、俺はなんとなく思った。一言も発しない彼女に、俺は残った味噌汁を分けてあげることしか出来なかった。