「超人Q」-5


 ―2 復讐と復習 僕と超人Qと妹と殺人鬼達について


 僕はその日まで、いたって普通の人間だったような気がする。もちろん、普通という定義は非常に曖昧だけれど、非常に広い意味を持っているように思えるけれど、なんとかその枠から外れずに僕は生きていたんだ。世界を怨むようなことがあっても、刃物や鈍器によってその恨みを世界に顕在させるような行為に出る事は無かったし、世界の美しさと優しさに涙しても、それを文章や絵画に起して他の人に伝えようとした事は無かったんだ。いや、どちらかと言えば僕はそのどちらもできなかった、できないくらいに無力だった。そして、そういうのって、僕達にとっては普通な感覚なんだと思う。
 僕と妹は二人暮しだった。親は居ない。産まれた時から居ないし、成長してからも現れない。僕たちは最初から終わってた。僕よりも妹のほうが終わっていたけれど、僕達は終わっていた。なんでそんな終わってる僕達がこうして生きてこられたか不思議に思うだろうけれど、世の中には親が残したけっして少なくは無い遺産なんていう素晴らしい存在があるところにはあって、それを黙って自分の懐に居れずに律儀に僕たちに渡してくれる人なんてのが居たりするのだ。そんなわけで、僕達二人は何とか生きていた。
「……ねぇ、お兄ちゃん。さっきから上の空だけれど、ちゃんと私の話を聞いているの? ねぇ、聞きたくないなら聞きたくないって言ってくれれば良いからさ、無視ってのはやめてくれない。ねぇ、お兄ちゃん」
「う……ん? あ、あれ? 瑞樹? あれ、なんでお前生きてるんだい?」
「……はぁ。まだ寝ぼけてるのねお兄ちゃん。もう一度、頭の目覚ましスイッチを押してあげないといけないのね。いいわ、お兄ちゃん、ちょっと痛いけど我慢してね。処女膜を破られるよりは痛くないはずだから」
 そう言うと瑞樹は僕の頭に脳天唐竹割り、チョップをお見舞いしてきた。非力な瑞樹の腕力では処女膜が破れる三分の一程度の痛みしか僕には与えられなかったらしい。逆に瑞樹は、処女膜が破れたような顔をして、しきりに痛がっていた。痛がるくらいならしなければ良いのに、まったく茶目っ気のある妹だ。と、その時の僕は、確か思っていた。
「処女膜を破られるより痛くないなんて表現は、お兄ちゃん嫌いだな。瑞樹、まさかお兄ちゃんに言え無いような事、隠れてしてるんじゃないだろうね」
「するわけないじゃない。なにそれ、ジェラシー。実の妹にジェラシーなんかしてみっともないわよ。あぁ、やだやだ、こんな変態お兄ちゃん。とっとと死んでくれないかしら。終わってくれないかしら、あぁやだやだ」
「酷いなぁ。僕は純粋に瑞樹の事を心配して言ってるのに」
「私の処女膜の心配でしょ。心配しなくても、お兄ちゃんの為にちゃんと取ってあるわよ。毎日綺麗に磨いてあるんだから、はやくどうにかしてくれる?」
「どうにかって、どうするんだよ。あ、瑞樹、お茶取って」
「決まってるでしょ、ヴァギナにペニスを挿入するのよ。でないと、私ピクルスかカルパスに処女を捧げちゃうよ。お兄ちゃんそれで良いの?」
「別に、瑞樹がそれでいいなら僕は構わないけれど?」
 その日の朝はいつもと同じだった。瑞樹は僕にいつもこうやってふざけた冗談を言うのだ。やれうっとりとした表情でオニイサマアイシテルといったかと思えば、オニイチャン、キモチワルイ、シンデと瞳に狂気を孕ませて言うのだ。彼女の冗談の根底には近親相姦と言うテーマがいつでも流れていて、僕は彼女にとって時に優しくその処女を奪う憧れのお兄様で、時に無理矢理に腕力で処女を奪おうとするキモオタな豚兄貴でもあった。まぁ、実際僕達が肉体的な関係だったかと言うとそんな事は無い。僕達は至って健全に兄妹の関係を保っていたし、天国の父母に誓ってやましい感情を抱いたりはしていなかった。いや、同じ家に女の子と一緒に居れば、多少なりはそういう感情は生まれる、そういう感情を生理現象として処理するならば、だが。
 なぜ彼女がそこまで近親相姦に拘るのか、それについて僕は何度か瑞樹に問い詰めたことが会ったのだが、決まって瑞樹は「ただ、なんとなく。その方が萌えるかなと思ったの」と言うだけだった。この辺りが、流石に終わっているだけはあるなと思う。僕の妹ながら実に天晴れだ。
「ねぇお兄ちゃん。こんなのって凄くもったいないと思わない。だって、やりたい盛りの男と女が一つ屋根の下で暮らしてるんだよ。夜は長くて、周りには自分たちを知っている大人は居なくって、妹は変態なのに、どうしてお兄ちゃんは変態じゃないの。ねぇ、セックスすれば良いじゃない、本当はしたいんでしょう? したいって言いなさいよ、ねぇ、ねぇってば」
「そりゃね、僕だって年相応に男の子だから、したくないわけじゃないよ」
「じゃぁ良いじゃない。しようよ。ねぇ、私お兄ちゃんとだったら後腐れなくセックスできるわ。小学校の六年生の時、お兄ちゃんがおねしょしちゃった時も、私何も言わなかったじゃない。あんな感じに、私ね、お兄ちゃんとセックスしても、蚊に刺された程度にしか感じないわ。自信があるの」
「男の子としては、せめて犬にかまれた程度には感じて欲しいけどね。というか、随分古い話を引っ張り出してきたね瑞樹。忘れてよ頼むから」
「嫌よ、そして話を逸らさないで。あぁもう、これだから嫌だわ。どうして私のお兄ちゃんってこうして意気地なのかしら。こんなにレイプするにはうってつけの可愛らしい妹がすぐ傍に居るって言うのに、全然やらしさのかけらもみせないんだから。逆にかえってやらしいってものよ。ねぇ、お兄ちゃん、ちゃんとオナニーしてる。なんだったら、私が口でしてあげようか?」
「あいにく右手で間に合ってるよ。というか瑞樹、そういう下品なネタは嫌いなんじゃないの? これはお前にとってそういう縛りのゲームなんだろ?」
「五月蝿いわね。お兄ちゃんが余りに鉄の処女だから悪いのよ。あぁもう、馬鹿みたい。知らないわ、勝手にそこら辺の雌犬孕ませて来れば良いのよ」
 瑞樹はぷいと頬を膨らませるとそっぽを向いた。僕はそんなふてくされた彼女の顔を見るのが嫌いじゃなかった。正直、この扱いにはウンザリしていたのだけれど、最後まで耐え切ったときのこのご褒美は嫌いじゃない。
 瑞樹はそうなると暫くそうして動かなくなった。まるで、僕がもう良いよ、分かった、セックスしようと言い出すまでそうしているとでも言いたげに、彼女は決して動かなくなるのだ。そうして、十分もしていると流石に飽きて、僕に無条件降伏してくるのだ。そして決まって、この言葉を言う。
「ねぇ、何が不満なのよ。さっきも言ったけど、こんなのって凄くもったいないと思わない? 16になっても初潮が来ない妹が、兄にチンポ嵌めてって言ってるんだよ? ねぇ、そんなのって、あんまりだと思わない。こんな贅沢を、こんな極上品を、見て見ない振りなんて、私それあんまりだと思う」