人生は砂漠、僕はドブネズミ


 砂漠の中に産み落とされた、僕は砂漠に産み落とされた。砂漠には水も無い草も無い砂しかない。ねずみは常に何かを食べなければ死んでしまう。僕はドブネズミ、まともに生きられるわけがない。世界は砂漠、僕はドブネズミ。僕は何も食べられない。あるいはここが小さな田舎町だったら、僕は田んぼを駆け巡って稲だのばっただの食べて生きていけたかもしれない。ドブネズミが何を食べるのかはよく知らないけれど、僕は生きていけたのかもしれない。けれどもここは砂漠。僕の中に遺伝子レベルで刻み込まれた生存本能の根本を否定する状況、ここは砂漠。砂漠で僕は生きていくためのエネルギーを得られない、空気だけが義務的に与えられる、これで生きていけるでしょうと、まるでそれでこの世界が優しいかのように酸素だけが与えられる。酸素だけでは生きてはいけない、そんなものはこれっぽっちも平等なんてものじゃない。僕は生きていけない、遺伝子レベルで生きていけない、砂漠の中じゃ生きていけない。それを人は怠慢だと、社会をうらむだけで何もできない馬鹿の妄言だとあざける。けど、本当に僕は遺伝子レベルで生きていけないということをもう経験則で知ってしまっている。だって僕は今まで一度もアマゾンの夢を振り払って死を選んだことはなかったし、常にアマゾンを目指して四つの足を動かしたのだ。けれども僕はアマゾンにたどり着けなかったし、餌は一つだって落ちていなかった。それでも何とかここまで来たけれど、まだアマゾンは見えない。地図もなしにただ走り回って、僕は同じ所をぐるぐると回っている哀れなハムスターなのかもしれない。けれども、それでも、僕は砂漠では生きていけないということだけは自身を持って言えた。こんなものはちっとも平等なんかじゃない、こんなものはちっとも面白くなんかない。僕は死ぬためにここに居るだけの存在だ、僕は君たちとは違って普通に生きることすらままならない人間だ。だってそうだろう。なんで僕は人と関われない。なんで僕は一方的に誰かから虐げることしか出来ない。なんで僕は誰かに深い傷を負わせて苦しめることが出来ない。僕は人に関われない、僕は人と関わっていけない。そんなものは、そんな人生は砂漠だ。僕は砂漠の中に産み落とされたドブネズミだ。僕は誰にも関わらないし、関われずに死んでいくしかない。なんの餌も僕の前には無いし、オアシスは現れないし、人間にもなれない、僕はドブネズミだ。僕はこのまま死んでしまうかもしれない。だって僕は最近自分の脳みそがおかしくなりつつあるのを知っている。こんな狂った文章を恥ずかしげもなく出せるようになったし、なによりも、僕の日常の発言が狂いだしている。普通の地図を見て、なぜ反対なんだと言ってしまった時の衝撃が頭から離れない。それは普通の地図だろうと、元同級生が僕に言う姿が僕を苦しめる。言葉がおかしくなる、言語が狂う。体もおかしい、バランスがとれない。ふらついて車道に飛び出しそうになる。視力は年々悪くなる、いつまで文章が書けるかも分からない。まともな文章はこれだけかいても一度も書けたためしがない。そして文章は誰も読んでくれない。僕は孤独のままこのまま死んでしまう、砂漠の中で死んでしまう。それは嫌だ、嫌だけれど、僕の叫びは届かない。砂漠には人は居ない、砂漠には声は響かない、砂漠は孤独。そして僕は孤独の中で死ぬ、誰も知らずに死ぬ、誰にも掘り起こされずに死ぬ。僕は死ぬしかない。死ぬより他に道は無いのかもしれない、それでもまだ何か書けるうちは書くしかない。僕には書くことしかもう残されていない、一発逆転は書くことでしか起こせない。僕は書く、どこまでも書く、孤独の中で書く、誰が見ていようが、誰が見て見まいが関係ない。僕は書く。書いてやる。砂漠の中に産み落とされた僕は、文化と出会った、僕は生きることは出来ないので、文化をやることしかできなかった。僕には死ぬことしかできないし許されていないから、文化をやるしかできなかった。僕には文化しかない、その文化さえも僕を否定する、何もかもが僕を否定する。僕の人生は否定、それは砂漠、一切の恩寵無き無慈悲の砂漠。僕はそこに立っている。そこに立っていることに対して僕は優越感なんて持っていない、ただ絶望感だけを持っているのだけれど、それでもやっていくしかないので、僕はまたオアシスを目指して走る。絶対に僕は生きていけない。僕の生存本能は砂漠の中でポンコツだ。それでも、ドブネズミは生きるために走らなければならないのだ。文化的な死など糞くらえだ、お高く留まりやがって、糞くらえだ、文学でなくても生きられる奴など糞くらえだ。叩き潰すなら叩き潰せ、お前達は叩き潰すのが大好きだからな。いつか仕返ししてやりたいが、僕は絶対にそんなことはできない。僕はいつだって人に傷をつけることが出来ない人間だ。命がけでしか人を傷つけることが出来ない人間だ。自分も傷つかないで、人を傷つけることが出来ない人間だ。お前が僕を潰すなら、僕はせいぜい相打ちでお前を潰すことしかできない。それは、お前が僕を潰したという事実を世に示すことくらいしか出来ない。その程度の人間だ。結局僕はそういう人間だ、その程度の人間だ、その程度はドブネズミだ。僕はドブネズミ。人間に叩き潰されないように、こそこそと生きるドブネズミ。潰されてあぁ可哀想なドブネズミ。けれども生きなくちゃいけない、僕は生きなくてはいけないんだ。この砂漠を少しでも長く生きなくてはいけないんだ。それは理屈でもなんでもなく、根本の所にある生存本能、使い物にならない生存本能が俺に生きることを求めていた。僕はまだ走れるよ、この砂漠の中でもまだ走れるよ、お前達から隠れて走れるよ、生きてやる、生きてやる、生きてやる、絶対に生きてやる。僕はドブネズミ、いつか何かを壊してしまうことを夢見て走るドブネズミ。砂漠を越えて、いつかペストで街を混乱に導くために生まれてきたドブネズミ。