「味噌舐め星人の侵略」


 バイトを終えて家に帰ると味噌舐め星人が俺のベッドで寝ていた。味噌舐め星人は長い黒髪の可愛らしい女の子だからその光景はほほえましかったのだけれど、彼女の口にべっとりとついた味噌が涎で溶け出して、俺の枕が汚れてしまうのはご遠慮願いたかった。けれどあまりにすよすよと気持ちよく寝ているものだから、起すのは忍びないのでそのままにしておいた。口元にタオルを置いて一応の応急処置をすると、俺は夕食の支度に取り掛かる。
 今日は久しぶりに鯖の味噌煮でも食べたい気分だったのだが、味噌舐め星人が味噌を嘗め尽くしていたので仕方なく鯖の塩焼きを作ることにした。グリルに鯖の切り身を放り込んで塩をまぶすと、俺は本棚から適当な小説を抜き出し、グリルの前にパイプイス椅子を置いた。パイプイスに腰掛けてグリルに火をつける。そして、俺は村上春樹の「村上春樹短編集1」を読もうと思ったのだけれどそのとき丁度味噌舐め星人がけだるそうな声をあげて布団の中から這い出してきたので、仕方なくそっちの方を向いた。
 味噌舐め星人は寝ぼけた瞳で僕を見ていた。ここがどこか分からないようだったので、おはよう昨日は激しかったねと言ってやると大いに驚いた様子だった。驚いた様子で、責任を取ってください、私を傷ものにした責任を取ってくださいと五月蝿く喚きだしたので。冗談だよと俺は言った。やっとそれで味噌舐め星人は自分がどういう経緯で俺の家に居るのか思い出したらしく、顔を真っ赤にして布団の中に戻るともじもじと身を捩った。それはとっても可愛らしかったのだけれど、やっぱり味噌舐め星人は宇宙人で、ずいぶんと長い事寝ていたというのに彼女の長い髪の毛には寝癖の一つもついていない。
 できれば味噌舐め星人にはずっと布団の中でもじもじしていて欲しかったのだけれど、やがて彼女は布団の中から出てきて俺の居る台所にやってきた。味噌舐め星人が台所にやってきてやる事といったら、それはもちろん味噌舐め星人だから味噌を舐めるという選択肢しかないのだけれど、冷蔵庫の中の味噌はもうすっかりと全部彼女の胃に収まっていた。するとねだるような視線を俺に向けて、お願い味噌を買ってきて、と言った。俺は、しばらく味噌はいいよ、味噌を舐めたいなら他の家に言ってといった。すると、なんて無責任な人と味噌舐め星人が俺を罵った。無責任だなんて酷い言い方だと思った俺は、俺は別に君に対して何の責任も持ち合わせていないよと言ってやった。するとまた彼女は、なんて無責任な人と俺を罵った。いい加減頭にきたので俺はまた彼女を押し倒して、ペニスを顔に押し付けてやった。そしてしゃぶれよと俺が言うと、彼女は泣きながら、味噌以外のものを舐めたら味噌舐め星人は死んでしまうのだからどうかそれだけは勘弁して、と懇願してきた。俺も別に本気で味噌舐め星人にそんなことをするつもりは無かったので、それで許してあげる事にしたのだが、彼女はそのあともしくしくと泣き続けた。あまりに泣き続けて鬱陶しいので、俺は仕方なく近くのスーパーマーケットまで走って赤味噌を買ってくると、少しだけスプーンで掬って後の残ったのを味噌舐め星人にくれてやった。味噌舐め星人は面食らってから喜んだ。
 俺は焼き鯖を急遽鯖の味噌煮に変更した。ずうずうしくも味噌舐め星人は鯖の味噌煮を食べたがったので、しかたなく俺は半切れだけ分けてやった。