佐藤友哉著 『子供たち怒る怒る』読了

 えぇまぁ、私の住んでる地域にある図書館は、ハルヒとかキノとかブギーポップとか真田密伝とか、普通なら置いてなさそうな小説が置いてあることで有名なのですが。どーれ、マイナーなユヤタンの作品がどれだけ置かれてるのかなぁとPC端末で検索してみると、鏡家サーガ以外全部あるでやんの。で、早速、そのとき貸し出ししてなかった奴をありったけ借りる俺。ちゃうねん、別にユヤタンがそこまで好きとかそういうんやないねん。鏡家サーガの続きが気になって、短編集の中になら入ってるかなと思って……。ふむ、カルマが深くなっておるのぉ。
 まぁ、微塵も入ってなかったんですけどね。なるほど、そういや続編出せなくてもめたとか言ってたもんな。キャラクターの権利もがっちり握られてるわけだ。HAHAHAHA、現代で創作しようと思うと大変ですにゃー。とまぁ、とりあえず鏡家サーガは置いといて、肝心の内容について言及。


 結論:俺はこの人の作品をエンタメとしてしか読めない
 牛男とかどういうトリックで現れるのかとか、割りに毎回真剣に考えるんですが、もうこの人の話に付き合うのは無理。精神的な話には概ね同意・共感できるので、もうなんというか、あまり考えずに読むのが一番かなぁと。つっても、直感だけで推理するタイプの人間ですので、考えてもどうせ分からんでしょうけど、私は。おおっとそんなことはどうでもいいな。
 各話感想は以下の通り。

大洪水の小さな家

 たぶん、自己完結してるのが人間として完成してる状態なんじゃないだろうか。俺なんかは親父やお袋に大事に養われて、そりゃもうそれに対して感謝はしているし、彼らを含めて自分を完結させているけれど。けれども、爺さんが癌でおっちんだときには、泣きもしなかったし、むしろ爺さんが死ぬ直接的な原因を作ったのは俺だし。そういう意味で、なんだろう、ある種の自己完結というか、親しい人が死んだ時に発生する感情の不明瞭さみたいなものは、誰にでもあるんだと思う。だから、主人公が妹の死で感じられなかった喪失感(これを書こうとするといつももしつかんと打ってしまうのが、私の病気)ていうのはそれなんじゃないの。で、そこを強調して書いていたんだけど、うぅむ。やっぱりこの人の話はよく分からん。けれども、たぶんそういう所に根ざしたことだよ。つまりね、死んだ人間は忘れられるんだよ。人間の関係性なんてのはそんなものなんだよ。そういう人間性なんて言う縛られたものに生きている間が子供なんであって、過渡期を経て私達はそういう一人で生きられる何かに変わってしまう。大人になるってことがどういうことなのかを言いたいんじゃないのかなぁ。この話では。

死体と、

 これは壮絶意味分からんね。俺はこの女の子の死体の口の縫合がぼろんと剥がれてしまうのかと思ったのよ、最後には。まぁ、死体が世界に不幸を撒き散らしたって感じでしょうか。うーん、何が言いたいのか。死んだ彼女がなんでこんなにも周りに影響を与えるのか。なぜ与えなくてはいけないのか。その身に背負い込んだ不幸の拡散? むー、三題囃しか何かで即興で作った感じだよなぁ。うーんうーん、やめたまじめに考えるだけあほくさい。けど、登場人物たちの行動自体は結構リアルな感じで凄いなぁとはおもう、よくここまで話を膨らませられるよ。展開がご都合主義なのはあれだけれども。

欲望

 他者との拒絶。以上。あれだろ途中で語った理由も捏造で、本当に適当に思いついてやり始めたってそれだけだろ。まぁ実際そういう奴って少なからず居るよな、うん、居るのか? 残念でしたまた来週なのではなくて、まぁ、そういうのに対して自分達がどれだけ肝要になれるかってことなんじゃないの。結局の所、それをどうにかしようとした奴らは全部死んじゃったわけだし。他者への不干渉という理解。時に自分以外の人間に従うエゴの否定。システムの中にある生。絶対そんなたいそうなものじゃないと思うけれど、まぁそんな感じかなぁ。

子供たち怒る怒る

 うーん、うーん。なんというか、それらしい設定をがんがん詰め込んでるけど。まぁ、これが一番面白かったかなぁ。
 結局は主人公達が怒る怒る物語なんだけれども。たしかにねぇ、世の中にはこういう理不尽な状況を背負って生きている子供は少なからず居るだろうなぁ。そいでもって、そういう奴らが世の中に対して恨みを持つのは決して間違ったことじゃないとも思う。けれども、そういう当事者を前にして、臭いものに蓋をしてしまうのはしかたのないことだろ。誰にも文句は言わせないぞ、それは俺にだって、俺の友達だって、実際に経験してきたことだからさ。そして、この作品みたいに奇麗事で全てが片付くわけじゃないんだ。皆が協力したらその瞬間になにか分けのわからない力が手に入るわけじゃない。おかしいぜ、この論調は。推理小説作家として致命的だぜ。力が無いから力のある人間をどうこうする理論を構築する。それが、推理小説の肝じゃないのか。けれどもそれじゃ弱い人間は絶対にいつまで立っても弱いまままだ。世の中にはどうしようもなく弱い存在が居る、そして、彼らは手を差し伸べられるまでとても無力だ。彼らには這い上がる力なんて無い。這い上がった奴らが作り上げた世界で、這い上がるだけの力なんて無い。だから、壊してしまおう。くらいには、この作品を読んで思えるんだよ。こういう話は好きです。しかし、途中で横山さんが殺されなくちゃならなかったのはなぜだ。彼女のがああいう目に合わなければいけないのに、ストーリーの流れ以外に何か意味があるのか?

生まれてきてくれてありがとう!

 うぉー、人形のパンツ見てー! そんな風に思っていた時期が僕にもありました。誰だってあるさ、そんなの!
 そしてまぁ絶対に負けないぞ屈しないぞの部分は凄く好き。佐藤友哉の内面にある、こういう不屈な部分、絶対に折れないぞって、そういうところが俺は堪らなく好きだ。本当に、彼の作品を見ていると、勇気が沸いてくる。絶望だらけの物語だとか言っているけど、そんなことは絶対にない。彼の作品は、絶望の中で、もうどうしようもないどん底の中から、這い上がろうとする人間の物語だ。そんな風に俺には見える、読める。

リカちゃん人形

 男の浪漫ですね。不幸な女の子を連れて逃げるなんて、男の浪漫ですね。男の浪漫を凝縮したような小説ですね。それに、被害者人間が持ち合わせている不の感情をべっとりと塗りたくって焼き上げたピーナッツバタートーストですよ。これは甘い、スイーツ(笑)。けどこういう話は結構好き、結構好きというかめちゃくちゃ好き。
 あ、あと最後の超展開は、お人形からの脱出なんでしょうね。結局は、彼女はあぁすることで、本当にお人形から脱出することが出来たんでしょう。


 やっぱ面白いです、佐藤友哉。さぁ、次は鏡家サーガを読みましょう。秋水くんオススメの、「エナメルを塗った魂の比重」の前に。本格推理がどんなものかも知りたいので、ちょっとユヤタンはおやすみ。次は、森博嗣「全てがFになる」です。うぉー、PGには溜まらんですなこの本は! 実にツボを心得ております。俺もこんな島で働きてー!!(実力足りないけど)