お察しの通り


 悪い病気を発病中。けっこう遅くまでプログラミングしてまんた。
 これくらいできんと社会の中で私の居場所は無い。私にはプログラミングだけしか残されていないんだ。成果を出さなくては、成果を出さなくては。私には人をまとめる能力も無い、物事をうまく勧める能力もない、カリスマも無い。あるのはプログラミングだけ、根性だけ、体力だけ、若さだけ、功名心だけ。これが無くなったら私はもう生きていけないし、きっと周りから馬鹿にされる人生が待っているだけだ。くらいつけ、くらいつけ、くらいつけ、くらいつけ。死んででもこのバグを来週まで持ち越しちゃいけない。くらいつけくらいつけ、食い破れ、ぶち壊せ、天元突破だ、男としての意地を見せろ、人間として生きていていいという証を立てろ!!
「まぁ、そう気張るなよ。月曜の朝にでもちょいちょいと弄ったら治るって。今日は運がない」
「ちょっと休んだら治りますって。そんなもんですよプログラムなんて」
 なんの根拠も無い同僚達の声。そんな馬鹿な、今日出来ないことは明日だって出来ない。僕は成長しない、絶対に成長しない、今までもそうだったし、これからもそうだった。僕はいつまでたっても、愚図でうすのろで間抜けで要領の悪くて、人間に近寄っちゃいけない惨めな何かのままなんだ。君たちは違う、俺とは違う、ちょっとした努力でなんでもできてしまうね。僕にはもう、ちょっとした努力で出来てしまうのは、プログラミングくらいなんだ。それすらも、こんなに時間がかかって、プログラミングコンテストに出ても賞の一つも取れないよわっちくて駄目駄目な力なんだ。君たちのように、なんでもできる人間にこんな情けない気持ちが分かるか。なぁ、僕はもう呼吸するようにプログラミングをしなくちゃ、問題を解決できなくちゃ死んでしまうんだよ、なぁ、分かるか死んでしまうんだよ。死ななくても、親のお人形になってしまうんだよ。誰かに生かされることの惨めさが分かるか。生きていくためにアルバイトすることにさえしり込みするような男が、なんとかプログラムの腕一つで生きて行こうと思って、それで頑張った結果が敢闘賞で、あまつさえ会場で、「これからはオタクグループの発表ですね、いやー彼らがどれくらいの能力があるのか楽しみですよ(笑)」と審査員に鼻で笑われた時の悔しさが分かるのか!! お前は、分かるのか、分かるのか、分かって言ってるのか、お前達は、俺がなんにも感じずに生きていると思っているのか、鈍化していると思っているのか、沸点が違うだけで俺は怒っている、この世界というちゃぶだいをひっくり返して天井にぶちまけてしまいたいくらいに怒っているし、自分のその程度の実力に落胆してるんだよ!! 分かれとはいわないし、分かって欲しいとも思わない、同情は死だ、同情されて生きていくくらいなら、死んでしまったほうが俺は遥かに俺で居られるんだ!! 分かるのか、分かるのか、分かるのかよ……。
 けど、ちがうぜ。そうじゃないぜ。こんな愚図な俺を彼らは心配してくれてるんだぜ。なぁ、今日は最高に苦しい一日だったな。けど最後の最後でなんとか正気に戻れたみたいで良かったな。朝から母親に毒づいたり、全てを呪ったり、自分が疎まれてると勘違いしたり、大変だったけど。けど、最後に実感できたな、あぁ、そうだよ、彼らは僕のことを確かに心配してそのとき声をかけた。
 物事の正しさなんて結局の所関係ないんだ。そこに自分を思ってくれていると思える何かがあるなら、もうそれでいいじゃないか。
 まだ尾を引いてパソコンから離れなれなかったな。もうそれは業病だよ。けど、よく周りを見ろよ。お前の居る環境は地獄なんかじゃないし、たとえ地獄だったとしても、こんなどうしようもない愚図を気遣ってくれる仲間が居るぜ。
 じゃぁ、その仲間に答えなくっちゃならない。僕がプロコンで本当に得るべきだったものは、結局の所それだった。