第一話「これ、ラブ○んのパロディ(つうかパクリ)って読者に伝わるのかな?」


 開放感と虚脱感。なんともオナニーと言うのは不思議な物だ。えちぃモノ見てナニが立って、それを擦ったり息を荒立てたりするだけ。ただそれだけなのに止められない、止まらない。まるで魚が水の中では生きていけないように、ジャンキーがクスリ無しでは生きていけないように、オナニー無しに人は生きていけない。

 呼吸のようにオナニーし、寝ていても心臓が動くがごとく夢精―― コンドーム着けながら寝なくちゃいけないから、そこまで頻繁にするわけではないが――し。そういう風に俺は生きたい。

 そう、自己実現は大切だ。そして、この俺の力はそのためにある。方やマジになって、巷で正義のヒーローとちやほやされる為に使うのも良いだろう。しかし、そんなものは社会奉仕でもなんでもなく、いってしまえば、自己満足。一歩間違えばオナニー行為だ。だからこの力を俺がオナニーに使おうと、無問題。むしろクラスのアイドル有坂香奈子を操って、あられもない事をしたりとかそういう事しないだけ、健全だし地球にも優しい。まぁ、妄想の中じゃ俺のオナペットだけどな、香奈子は。

 「というわけで、回復魔法キュア」

 俺の手に包まれピカピカと光る股間。よく、アニメとかの効果で股間が光ったりするが、まさしくその感じだなぁと。しかも、このなんともいえない精子の満ちてくる感覚が、意外と快感だったり。あ、もう出そう。こっちも魔法も、無駄撃ちはよくないからな。魔法解除の宣言を行うと、とりあえず既に三割がた回ってしまったエロ巡回サイトのブックマークとにらめっこする。今日の気分はそうだな、FLASHの気分かな。と、有名エロFLASH師さんのホームページをクリック。

 「まだやるですか、ご主人様。もう朝ですよ〜」

 「うるさい、黙ってろクロ!! 今日は大学の講義は休みなんだ。寝ずの10発くらいやらんでどうする!!」

 と、まだTOPの新作が更新されておらずがっかりする俺に、呆れた顔で目と瞳孔を細めてやがるのは、使い魔のクロ。最初来た頃はかわいらしい奴だったが、最近は随分と生意気な事を言ってくれる様になった猫ヤロウだ。とはいえ、流石に畜生の身分はわきまえてるのか、あからさまに俺を非難することは無い。もっとも言ったその場で、去勢しに動物病院に直行だが。

 「もう。ご主人様、少しは唯ちゃんの様に、世のためにその力を使おうとは思わないですか?」

 「お前が今そうやって喋れるのは誰のおかげだと思ってるんだクロ」

 「僕が喋れるのはご主人様のおかげですけども〜。けど、休日家に引きこもってオナニー三昧とか、魔法使いとしてどうとかの前に人間としてどうかと思うのです」

 「ほほぅ、良く聞こえなかったなぁ。腹が痛いって? それはあれだ、発情期かも知れんな」

 「はぁ…… まぁ別に僕は良いんですけど。けど、魔力の無駄遣いですよ」

 「寝たら精子と同じでまた満タンになるんだ、使わなきゃ損だろうが。まったく、この馬鹿猫め、そんなことも分からんのか」

 「はいはい、どうせ僕は馬鹿猫ですよ〜…… はぁ」

 ぽてりともたげていた首をベットに沈め、クロは二度寝に入り始めた。まったく、俺がオナニーする度にギャーギャー騒ぐから、こうやってお前が寝ている時間にやっているというのに。飼い主の心ペット知らずとはこのことか。

 何にせよ、完全にやる気はそがれた。流石の俺も、ナニを回復する魔法は知っていても、ナニをギンギンにする魔法までは知らない。まぁ、その辺は今まで主にテクニックで補ってきたわけだが、まぁそのテクニックもいまや使用済みの萎んだ風船のごとくなってしまったこれには効果も薄そうだ。

 「ふぅ。まぁいい、一度抜いた画像でもう一回抜く事ほどむなしい物は無いからな…… 今日はこの辺にして、朝飯にするか」

 「あ、ご飯ですか? 僕も行くです」

 パと首を上げるとズボンをはく俺の後ろに擦り寄るクロ。まったく、卑しい奴だ。こいつの事だ、飯をやらなければ簡単にこの家を出て行きそうだ。いっそ飯抜きにするか。いや、なんだかんだでこいつを抱きながら寝ると結構暖かいしな。それに、万が一、いや千が一にも俺に彼女が出来たとき、話題にもなるし。

 「はやく行くですよ、ご主人様」

 「う、うむ。そうだな、ん〜 七時か……」

 この時間だとあまり合いたくない奴が居るんだが、夜通し運動し続けた俺様の下半身は軽く水分とたんぱく質を欲している。背に腹は変えられぬなと、俺は部屋に干してあったTシャツを羽織り、部屋を出た。

 階段の方から香ってくるこの匂い。今日の朝ごはんはどうやらパンらしい。

 とてとてと、階段をクロを伴い降りる俺。居間に入ると、案の定会いたくない奴がそこに居る。しかも、ちょうど七時だった為、二人も。

 「『そこまでよ、ホークネイル!!』 悪の秘密結社ホークネイルの陰謀を、またしても魔法少女ティンクルユイちゃんが粉砕しました」

 朝のニュースの中で、かわいらしいフリフリの衣装を身に纏いポージングしている魔法少女。その魔法少女の中の人が、毎朝顔を合わすなりまるで道でうんこ踏んだような目で俺を見てくるだなんて、言った所で誰が信じてくれるだろうか。魔法少女ティンクルユイこと、俺の妹大西唯はペッとから揚げの骨を皿に吐き出すと、何も見なかったかのようにパンにかじりついた。と、そんな妹の横で朝食を作り終えてテレビを見ていた母さんが、俺に気づく。

 「あら、お兄ちゃんおはよ〜。ほらほら、ちょうど唯ちゃんのニュースが始まったところよ」

 「お、おはよう、母さん…… 唯……」

 挨拶すら返さず黙々とパンを食べる妹を前に、俺は母さんの隣に座る。ぽややんとした感じの母は、俺達の軋轢を知らんでか、テレビの中でかわいこぶりっこしながら悪の組織を懲らしめる娘の姿に見とれている。

 「すごいわ〜、唯ちゃん。今月でニュースになったの5回目よ。すっかり正義のヒーロー、ううん、ヒロインね」

 「別に、魔法使えるんだったらこれくらい当たり前よ。皆ギャーギャー騒ぎすぎなだけ」

 「えらいわ〜。お母さん、魔法使えないから尊敬しちゃう」

 その割にはきっちり着替えて、しかも愛想振りまいているのは何なのか。まぁどうせさっきのは、俺に対するあてつけなのだろうけど。

 「おはようございますです。雪さん、唯ちゃん」

 「おはよう、クロ」

 「おはようクロちゃん。あ、今、ミルク用意するから待っててね。あ、お兄ちゃんは、パンどうするの?」

 「そのまま焼いてください。マーガリンで食べます」

 とてとてと、台所にかけていく母さん。普通、俺のことを聞いてからペットだろう、何故にペットの餌のついで見たいに俺に何を食べるか聞くんだ。まぁ、母さんは悪気は無いにしろ、問題はこの愚妹だ。あろうことか、ペットに挨拶しといてその飼い主を無視するとは、どういう了見だ。育て方を間違ったかもしれない。まぁ、育てたつもりも無いが。

 国営放送で延々と流される妹の戦闘シーン。もっと国債がどうとか、いろいろ言う事もあるだろうに、よっぽど暇なのだな。なんてことを思いながら朝刊を見ると、ここにも妹の写真が。しかも一面ぶちぬきで、いつのも社説が五行になっていた。魔法少女がこうも跋扈するようになっては、国として終わりのような気がしないでもない。とりあえず、一面を読み飛ばすと、自衛隊の戦地引き上げの記事が。やはり、新聞として何かがおかしい、ここの新聞も取るのを止めようか。

 「唯ちゃん大活躍ですね〜。けど、無茶しちゃだめですよ、女の子なんですから。嫁入り前の肌に傷なんてついたら大変です」

 「大丈夫よクロ。私そんなに柔に出来てないし強化の魔法もあるから。だから、どっかの誰かさんみたいに、カイフクマホウしょっちゅう使わなくていいのよ」

 「おいおい、随分な言い草だなマイシスター。可愛い顔が台無しだぞ」

 「別にアンタのこと言ったわけじゃないわよ。それより、話に入ってこないでくれる?」

 こっちも見ないですらりと言ってのけるとは、わが妹ながら末恐ろしい奴だ。このままこいつを世の中にのさばらせて置いて言いのだろうか。それこそ、この調子で金と権力を手に入れたら何をしでかすか分かったもんじゃない。

 「ところで、お兄ちゃん。休日にこんなに早く起きて、今日はどこか行くの?」

 「いや、特に用事とかは無いんだけど」

 「そうよ、そんな奴に休日に行くところなんか無いわよ。行っていいとこコンビニ?」

 「唯さん? 先ほど話しに入ってくるなといっておいて……」

 「アンタには話してないの、私はママに話してるの」

 こいつ。本当に、同じ血液型で無かったら、今頃ひん剥いてひぃひぃ言わせてやるのに。というか、何で俺みたいな成人君主な男の妹が、こんな極悪人なんだ。おまけに性格以外は中より上とか、神が二物も三物も与えすぎたかのごとくの完璧超人ぶりには、もしや俺は拾われっ子なのではと一抹の不安を感じてしまう。いや、それならそれでひん剥いてやるだけだが。 ……妄想の中で。

 「ご馳走さま。それじゃ、学校行ってくるね」

 「行ってらっしゃい、ユイちゃん。はいこれ、お弁当」

 「うむ、今日も一日勉学に励むがよいぞ」

 「アンタもちったぁ、違う物に励んだらどうなのよ」

 「うむ、だが断る。なぜなら俺は大学生だから。ニートじゃないから、休むときは休むのだ」

 「…… ご主人様、せめてバイトくらいしましょうよ」

 とてとてと玄関に向かっていく小さな背中を見送って俺は一息をついた。まったく、何のかんの言いながら、自分のニュースが流れないかギリギリまでチェックしているからだとか、生足が少し色っぽくなってきたなぁとか、考えている俺の前にトーストとマーガリンが置かれた。既に朝食も済ましていたのか、俺が読んでいないがこれ以上読む気もしない朝刊を手に取ると、軽やかにスクラップブックを取り出し、娘の写真を切り出し始める母さん。果たして俺が唯のような状態であったとしてもこのようなことをしてくれるのか。…… あまり深く考えるのはよそう。

 まぁ、マーガリン塗っただけのパンをそう長々食う気にもなれず、あとはコーヒーいっぱいだけを頂くと早々部屋に戻る俺。牛乳の御代わりをしたそうなことをクロが抜かしたが、こいつの為だけに俺のオナニーライフを邪魔されるのは尺に障るので、無理やりつまみ上げて部屋につれて帰った。

 「はぁ、今日のミルクは美味しかったです。アレは、普段の加工牛乳ではないです」

 「ジャージー牛乳なんざ、お前みたいな野良もどきには贅沢なんだよ。明日、農協牛乳買って来てやる」

 「そんな〜。食の自由の権利の侵害です」

 「飼い猫にんなもんあるか!!」

 ぶうとふてくされて、また俺のベッドに寝転がるクロ。ストーブに電源を入れ、同じ高さにあるPCに軽やかに手を伸ばすとこれまた電源を入れる。さて、先ほどはクロのおかげで邪魔をされてしまったが、食事をして心機一転 ……するほどのものを食べた気はしないでもないが。とにかく、日課再開だ。

 ん。なんだ、いつまでたっても画面が暗転したままだ。というか、全然ファンの音が聞こえてこない。もしかすると、着けっぱなしで部屋を出たかもしれない。そう思って、もう一度電源ボタンを押すも、動かない。

 「こ、これは…… ついに、壊れた……」

 「あー。ついに壊れたですか、ご愁傷様です」

 「何を一番の原因くさいお前がのほほんと言いやがる〜!!! この毛か!! この毛が原因なのか〜!!」

 「にゃ〜!!? ご、ご、ごご主人しゃま、毛をむしるのは止めてください〜!!」

 いや、前々からやばいとは思っていたのだ。思いかえせば、一年前。急に電源が落ちたあたりから、挙動はおかしかった。それでも買い換えなかったのは、金が無いと言うのと、パーツショップに行くのがめんどくさかったから。まぁそういうわけで、ぶっちゃけクロの所為など微塵たりとも無いわけだが、とりあえず今日はこいつには散々言われてる気がしないでもないので、これくらいしてもいいだろう。

 「ふぅ、まったく。で、クロ君。どうしてくれるのかね、このPCを」

 「ご主人様の魔法でちょちょいのチョイじゃないんですか?」

 「馬鹿言え、魔法使いでも何でも出来るとか思ったら大間違いだぞ。サルが木から落ちるかのごとく、魔法使いにだって出来ない事もある」

 「ご主人様…… それは、失敗する事のたとえです」

 少し恥ずかしい。まぁ曲がりなりにも自分の使い魔だ、セルフツッコミといっても良いだろうから、無問題。というか、猫より知能が低いだなんてこの俺に限ってありえん。

 とりあえず、クロに動くなと言っておいて中身を確認。コンデンサの液漏れとかは無い感じ。で、電源が入らなかった事を考えると、やはり怪しいのは電源になってくる。まぁ、ケースについてきたのをそのまま使ってきたから、いつかはこうなるんじゃないかなとは思ってたけど。やはり、ケチらず買っておいたほうがよかったかもしれない、と今更ながら後悔。しかしまぁ、いっそ爽快に壊れてくれたらVistaに移行するというのに。。。 まぁ、Vistaかったところで、やるのはネットとエロゲくらいなんだけど。

 「はぁ…… とにかく、直すにしても今日中には無理だな…… パーツショップ行くのめんどくさいな」

 「いい加減普通免許取りましょうよ」

 「おいおい、あんな文明の力に頼りだしたら、目も当てられない小デブちゃんになっちゃうじゃないか。自転車が一番だよ、そのことについては中国には賛成できるね」

 「ご主人様は、もう十分中デブですよ」

 こいつは、いよいよ本気で動物病院に連れて行く日も近いかもしれないな。パソコンのふたを取り付けながら、俺はこのクソ生意気な畜生をどうやって動物愛護団体に訴えられない程度に甚振ってやるかに思いをめぐらせた。