「僕の甘味の少ない幸せな青春その三十」


 味噌舐め星人と俺とコロ太はとぼとぼと夕闇の中を家に向かって帰った。観鈴と一緒に帰るつもりだったのに、その意気をくじかれて、すっかりとやる気を失くした僕たちは、ほぼ無言で家までの道のりを歩いたのだった。
「お腹、空きましたね、お兄さん。何か食べて行きませんか」
観鈴が居ないのにもったいないだろう。いや、別にお前と一緒に食べるのが駄目って訳じゃないが。その、こんな状態で行っても楽しくないだろう」
 そうですね、と、味噌舐め星人にしては大人しく引き下がった。分かりやすいくらいにがっかりしている。こんな時こそ、景気づけにどこかに食いに行くべきなのかもしれないが、そんな気にはちょっとなれなかった。そしてそんな金は俺の財布の中には入っていなかった。実は、観鈴の持っている金をあてにして、食べに行こうと思っていたのだ。出してもらうと言っても、半分くらいだが、二人が腹いっぱいにご飯を食うには少し心もとない。
 あるいは牛丼屋やハンバーガー屋なら、なんとか二人くらいは食べれるだろうが、そんな所にはコロ太は入れない。仕方ないのだ。もう、今日は大人しく帰っておくのが正解だ。わざわざ外で食べなくても、途中でコンビニでもよって、僕はカップ麺、味噌舐め星人は味噌汁、そしてコロ太はおつまみのビーフジャーキーでも買えば、それで良いじゃないか。それで幸せだ。
「お兄さん。ミーちゃん、テレビで見るよりも頑張ってましたね」
「当たり前だろう。テレビに出てるのなんて、仕事の内のほんの少しだ。そのほんの少しの時間の為に、アイツは家に帰る間も惜しんで働いてる」
 だのに、僕達は何をしているんだろうね。かたや、大学に通うのを諦めたプータロー。かたや、家事手伝いもしない家事手伝い。一番下の妹が、一番しっかりしているなんて。しかも、彼女はまだ小学生なのだから、こちらとしても弁解のしようがない。まぁ、そんなことを言い出したら、その妹のおかげでなんとか職にありつけている、父さんや母さんも十分情けない。とりあえず、余り深刻に考えた所で、どうにかなるものではないのは確かだ。
「また、近くで撮影があったら、ミーちゃん応援しに行きましょうね」
「そうだな。またこの近くで撮影があったら、な」
 ワゥ、と、前を歩いていたコロ太が立ち止まり、僕の方を向いて吼えた。そうだな、お前も一緒に行こうか。観鈴も、家族が多い方が喜ぶだろうし。
 急にコロ太が吼えたものだから、驚いて、尻餅をついて倒れた味噌舐め星人。びっくりしました、急に吼えないでください、と、空気を読まずにコロ太に言うと、注意されたコロ太はまた、わぅと大きな声で吼えた。
 それに驚いて、押されただるまの様に後ろにひっくり返る味噌舐め星人、コロ太と一緒になって、僕は間抜けで、可愛らしい彼女を笑ってやった。
「もう、酷いです酷いです。なんでいきなり吼えるですか、この馬鹿犬は。しかも、お兄さんまで一緒になって喜んで。あんまりです」
 思わぬアクシデントだったが、笑いものにされて不機嫌な味噌舐め星人。やれやれ、そんな味噌舐め星人の機嫌を直すために、コンビニに寄って味噌汁でも買って行くとしようか。まったく、気難しい子だよ。