「味噌舐め星人の暴力」


 起きて、いたん、ですか。眠たげに目を擦る女の姿がリビングの入り口に見えた。ピンク色をした頭の悪そうなパジャマを着た彼女は、美しく黒い短髪を思うままに無造作に乱して、半分も開いていない目をこちらへと向けてきた。彼女の瞳は、常時からこれくらいしか開かないのだが、そのどこを見ているのか分からない微睡んだ視線は、多くの男を虜にしてきた。そして、俺もまたその虜にされた一人であり、その呪縛を振り切った男でもあった。白い白い、新雪の様に汚れない白い肌が、朝の光に輝いて眩しい。
 お前も起きていたのか、と、俺は雅に言った。佐東雅。俺のこの家での同居人にして、住む所を失くして転がり込んできた女。そして、俺のどうしようもない高ぶりと孤独を紛らわすだけしか、存在価値のない哀れな女だ。雅はゆっくりと俺の方へと近づいてくると、空になった鍋と湯気の立ち上る味噌汁の入った椀を見比べた。一人分しか作ってないんですか、私の分も作ってくれたら良いのに、なんて、まるで恋人か何かの様に甘ったるい、ふざけた台詞を言うようなら、俺は彼女を即座に殴りつけていただろう。しかし、そこは賢い彼女は、何も言わずに、私も、食べます、ね、と、まだ熱の取れない鍋に水を注いでコンロにかけた。じゅうと、鍋が水を焦がす音がした。
 薄いパジャマ越しにも雅の体は肉感的だった。それは俺が今まで出会っていた女の中で一番であり、俺が抱いた女の中で最も相性が良かった。また、彼女の白い柔肌に歯型や強く握りしめて痣をつけるたびに、俺は満足するのに十分な征服感を覚えたし、彼女の細い瞳の端に涙が溜まっているのを見るたびに、背徳感が電撃となって体中を駆け巡るのだった。とにかく、佐東雅は男の中の獣を満足させることにかけて、素晴らしい女だった。
 コンロの前に立ち鍋を見下ろす雅の姿に、俺は唐突に劣情を覚えた。彼女の無防備な上着のせいだ、あるいは無防備な胸元のせいだ。俺はゆっくりと彼女の後ろに近づくと、振り返るよりも早く彼女の両腕を掴んで、コンロに覆いかぶさるようにして彼女を抑え込んだ。止めて、くだ、さい、と、自分の立場も分かっていない発言をしたが、結果として俺を興奮させたので、殴るのは止めておいた。彼女の小ぶりな耳を舐め、唇で食み、舌で嬲る。快感に漏れる息などありはしない。嫌そうに、声を押し殺す彼女を、怯えて震える彼女の呼吸を、俺は安っぽいワインでも飲んでいる感じに楽しんだ。
 火を、使っています、から、危ないです、と、彼女は泣きそうな声で俺に懇願する。そんなことは分かっている、いちいち言うな。俺は容赦なく彼女の耳を奥歯で噛んだ。耳たぶではない、骨ばった部分をだ。痛いと、彼女が叫ぶと、コンロの上の鍋が揺れて、お湯が飛び出した。彼女の腹に飛沫がかかり、また悲鳴をあげる。まだ沸騰前だ、そんな熱いわけがあるかよと、俺は彼女の手を持つと、ゆっくりとその鍋へと誘導する。何を、するん、ですかと、また、不安げに彼女が尋ねてきたので、奥歯で耳をもう一度噛んだ。痛いと叫んだ瞬間、彼女の腕の力が緩む。その隙に、俺は彼女の手を鍋の真上へと移動させると、ゆっくりと舌を彼女の耳の穴へと入れた。このまま、鍋の中に手を入れたら、お前はどういう声で鳴くのかね。楽しみだよ。