「僕の幸せな幸せな子供時代、そのいち」


 僕はとてもとても幸せな家庭に生まれたのだと思う。とてもとてもと二回言っても足りないくらいだ。友達の家から憎まれない程度に裕福だったし、お父さんは髪が薄いけれど働き者で休日には僕と遊んでくれるし、お母さんは時々ヒスを起こすけれど普段はとても優しくて夜は僕と一緒に寝てくれるのだ。庭には小さな茶色の犬が居る。ジョンという雑種の子犬は、僕によく懐いていて、僕が家の外に出るとすぐに気づいてやって来る。喉を優しく撫でてやると気持ちよさそうに仰向けになって、お腹をかいて欲しそうにするのがたまらなく可愛らしい。僕の部屋はとても大きい。僕が五人寝転がってもまだ手足が伸ばせるくらいの広さがあるし、どんなにジャンプしても天井には手が届かないのだ。だから、夜一人で寝ている時に目を覚ますと、とんでもなく寂しい気分になる。お母さんとお父さんの部屋は別の所にあるからだ。お母さんは僕が寝付くまでは一緒に居てくれるけれど、寝付いてしまうとお父さんの寝ているそっちの部屋に行ってしまう。小さい頃は僕もその部屋のベッドの上で、お父さんとお母さんに挟まれて寝ていたんだけれど、もうお兄さんだからって、僕はこっちの部屋で眠るようになってしまった。
 そう、僕はもうお兄さんなのだ。今、お父さんとお母さんの部屋では、僕の可愛い妹が眠っている。触るとふにふにとして、おまんじゅうのような肌触りのする、おまんじゅうみたいに丸っこい顔をした、可愛い可愛い妹が。自分で言うのはなんだか恥ずかしいけれど、僕は妹が大好きだ。だって、妹を見ているととても幸せな気分になってくるのだ。このまま小さいままで、可愛いままで居てくれると嬉しい。けれど、早く大きくなってお話もしてみたい。僕の妹は大きくなったらどんな娘に育つんだろうか。いつも寝てばかりいるから、お寝坊さんになるのかな。それともお母さんみたいに、怒ると怖い女の子になるのかな。どっちでもいいけど、分かっていることが一つだけある。それはきっと、僕の妹は世界一可愛い妹になるだろうってことだ。
 僕は幼稚園から帰ってくると、うがいと手洗いをして、そしてすぐにお父さんと一緒に妹にただいまをする。妹が寝ていると、僕はそのお腹を優しく撫でてあげる。前に乱暴にして泣いちゃったことがあるから、泣かさないようにゆっくりと。そうすると、ほんのちょっとだけ、妹は寝ながら笑う。起きているときは、お父さんやお母さんの代わりに妹の世話をしてあげる。僕はガラガラで遊ぶのが好きだったって、お母さんはよく言っている。今はこんなので遊んでも楽しくもなんともないけど、妹は僕がガラガラを振ると、泣いていたりそっぽを向いていたりしても、必ず僕の方を向いてくれた。だから僕は、妹が機嫌が悪くなるといつもガラガラを振る。悪くなくても振ってしまう。ちょっと五月蠅いなって自分でも思うけれど、妹がほんとうに楽しそうに笑うから、一度やりだすと止められなってしまうんだ。
 できれば僕はずっと妹の世話をしていたいのだけれど、幼稚園に行かなくちゃいけないから無理なんだ。来年からは小学生だからもっと無理だ。けれど小学生になるのは嫌じゃない。小学生になれば、国語で字を習うからだ。
 はやく妹の名前を書けるようになりたい。みそのしえる、僕の大切な妹。