「魔法少女風味ミリンちゃんとお姉ちゃんさんの共謀」


 部屋に帰ると味噌舐め星人とミリンちゃんは、二人して簡易ベッドの上に寝転んで賑やかな音と光を発するテレビを眺めていた。年末の特別番組で、お笑い特集でもやっているのだろう。別段興味のない俺は、彼女たちの視線を遮るように、ベッドとテレビの間を歩くと、自分のベッドに寝転んだ。ふむ、人が通ったというのに、邪魔とか言わない辺り、そんなに熱中してみているというわけでもなさそうだ。時間つぶしに見ているのだろう。おい、お兄ちゃんがお帰りだというのに、お前ら、挨拶も何もなしかと言うと、おかえりなさいなのです、なのです、と、魂が抜けたような返事が帰って来た。俺が店長の病室に見舞いに行っている間に、なにかあったのだろうか。あったとしてもどうせしょうもない事だろう、特に気にする事もなく、俺は固いベッドに背中を預けると、彼女たちの見ている番組を眺めた。大晦日という年の節目の厳かな夜にふさわしい、実に馬鹿げた番組だ。こうでなくては。
 小腹が空いたな、何かスナック菓子的なものはないのか、と、尋ねると、買ってくればいいのです、お兄ちゃん、もう足は大丈夫なのですからと、ミリンちゃん。また、なのです、と、味噌舐め星人が追従する。いやいやまてよ、昼間の買い出しのついでに何か買ってきてただろう。寝ているだけに見えてちゃんと見てるんだぜ。視線はテレビの下、キュービックな白い冷蔵庫の上に置かれたレジ袋にロックオン。半透明の白いビニール越しにクッキーのパッケージが見えた。ミリンちゃんの大好きな、故郷の母の味がするクッキー。普段は甘いものなど食わないが、このクッキーは大量生産の割には美味しく、時たま食べたくなるのだ。そして、ちょうど食べたくなったのだ。
 いやなのです、あれは、お姉ちゃんさんと私で食べる用に買ったのです。お兄ちゃんはどうぞご自由に、歩いて下のコンビニでも行って、食べたい物を買ってくればいいのです。少し、怒った口調でミリンちゃんが言った。意味が分からない。なんで、いきなりそんな怒られなくちゃいけないんだ。何か俺はお前たちに悪い事をしたか。と、そこで、自分が彼女たちから逃げるようにして店長の病室へ向かったのを思い出した。まぁ、逃げたことに関しては、彼女たちに非があるからしかたない。しかしながら、その時まで、俺の足が治っているという事を隠していたことが、彼女たちの機嫌を損ねたのかもしれない。どうもこの娘たちは、俺が隠し事だとかをすると、腹立たしい顔をすることが多いのだ。どうにも女の子という奴の心は分からない。
 なぁ、足が治ったのを黙っていたのは謝るよ。悪かった。ただまぁ、どのタイミングで切り出すか迷っていたというのもあるんだ。だからそんな、怒るなよ。起こる、怒ってなんていないのです。ないのです。私たちは別にお兄ちゃんの足が治っていたってどうでもいいのですよ、ただ、治っていない振りをして買い物に行かされたのが癪なのです。いや、それは、ちょうどお前たちが買い物に行った後に回診があってだな。弁明しようとした矢先に、彼女たちは耳をふさいだ。やれやれ、こうなっては自分で買いに行くしかなさそうだ。仕方ないなとまた俺はベッドを立つ、すると、コーラ、おみそ、と矢継ぎ早に妹たちが叫んだ。満面の笑顔で、珍しく姉妹の意見が割れた。