「魔法少女風味ミリンちゃんはデジャビュを感じる」


 なんだかやりきれない雰囲気を抱えたまま俺たちはその部屋を後にした。俺の妹、倒れていた俺の発見者であるミリンちゃん等は、あからさまに納得いかないという表情を作っていた。実際に塩吹きババアを見たことのない彼女に、今回の一件を超常現象の一言で片付けさせることは、流石にできないだろう。俺だって、幽霊だったのだ、という一言で片づけるには、少し、納得のいかない所があった。いかない所というのは、例えば、あの日病室で初めて出会った少女に感じた懐かしさや、安堵感といった感情。あるいは、数日前に見た夢の内容等もそうだ。喉奥に刺さった魚の小骨のように、むず痒く無視できない、何かを飲みそこなった感覚。そんな何かが俺の心に引っ掛かっているのだ。そう、もしかして、あれは、あの少女は何か俺と関係のある者なのではないかと、本能的な直観めいたものが、俺の中に働いていた。
 味噌舐め星人が眠る待合室にもう一度戻る。味噌舐め星人はまだ眠っていたが、その苦悶の表情は更に濃くなっているような気がしてならなかった。後はよろしくお願いします。そう老いた看護婦に挨拶をすると、彼女は何も言わずにただ頷いた。それじゃぁ、私たちは戻りますので、よろしくお願いしますね、と、若い看護婦も言った。そうして、俺たちは待合室を後にしてエレベータに乗り込むと、俺が使っている病室のある階へと戻った。わざわざありがとうございましたと、ナースセンターへと戻っていく看護婦にお礼を言うと、彼女は良いですよ、それより、またなにか困ったことがあったら連絡してくださいと、優しく微笑んだ。まさしく白衣の天使という奴だ。ありがとうございますと、更にもう一度感謝して、俺たちは部屋に戻った。
 何かひっかかるのです、と、部屋に入るなりミリンちゃんは俺に言った。何が引っ掛かるって言うんだいと尋ねると、それが分かるなら、苦労はしないのですと、怒った調子で言った。それはそうだ。実はな、俺も少し納得のいかない部分はあるんだ。何が納得できないのです、と、ミリンちゃんはすかさず俺に尋ねた。あの少女に見覚えはないだろうか、と、尋ねてみた所でどうにかなるものだろうか。俺が納得のいかない部分と、彼女のひっかかっている部分が同じかどうかは定かではない。しかし、彼女の疑問は彼女の疑問として、俺の疑問は俺の疑問として、お互いに何かこの頭の上にぼんやりと漂っている空気を払拭する手がかりになるかもしれない。なので俺はミリンちゃんに、あの日見た少女について、感じたことを話すことに決めた。
 さっき病室で語った、あの日見た少女についてなんだがな、俺は、一度彼女を見たことがあるような、そんな気がするんだ。ただ、この病院に居る幽霊なんだとしたら、なんで、見たことがあるのか、不思議に思えてな。お兄ちゃん、幽霊が居ることに関しては、何も不思議に思わないのですか。いい歳して幽霊なんてもの信じてるのですか。何か恥ずかしいものでも見るような目を、ミリンちゃんは俺に向ける。いや、それは、確かに、そうなんだがな。まぁ、良いじゃないかと弁明する俺に、ミリンちゃんは呆れたようにため息をつき、でも、見たことがあると思ったのは私も同じなのです、と意味深な言葉を放った。あの病室、昔、見たことがある気がしたのです。