「B太は料亭に行った」


 ひとしきり味噌舐め星人に仕事の仕方を教え終わると、それを見越したように丁度いいタイミングで搬入のトラックが駐車場に入った。ちわっす、弁当の搬入です、確認お願いできますか。はいはいはいと、倉庫から出てくる醤油呑み星人。バイトしてうちのコンビニで働き出して日が浅いが、どうやら彼女は管理能力が高いらしく、POSの操作も二日かそこいらで業務レベルを一足越えて完璧に覚えた彼女は、今ではうちの在庫管理業務を一手に引き受けていた。彼女はプラスチックの籠を隙間から覗いて、素早く発注した商品かを確認すると、配送員が持つ書類に受領印を押す。さぁ、今から陳列だ。お前、あいつを手伝ってきてやれ、その後、俺が説明した通りに弁当を陳列な。俺が味噌舐め星人の肩を叩くと、彼女ははいと元気に返事をした。
 レジに戻ると、B太が私服に着替えていた。今日は彼と店長が早番で、俺よりも四時間先に店に入っている。五時間働いたので、これから一時間の休憩のはずなのだが、どうした事だろう、普段のB太なら着替えもせず給湯室で漫画を読んで過ごしているというのに。どこか行くのだろうかと、少し不思議に思っていると、どうやらそれが顔色に出ていたらしく、俺の顔を見たB太がこちらへと近づいてきた。いやぁ、都路さんがまたこっちに来てるらしくって、それでよかったら昼食がてらに先日の返事を聞かせてくれって言われちゃいまして。まぁ、そういう訳ですから、ちょっと出かけて来ます。
へぇ、そりゃ羨ましいな、社長と昼食となれば、そこそこのお店だろうに。言葉とは裏腹、興味のない風に装って言ってやると、そうなんすよ、なんか駅前にある肉屋のビルですき焼き食べるとか言ってました、楽しみっす、なんてしれっと言った。駅前の肉屋のビルと言えば、県内でも国内でも指折りの肉屋であり、高級料亭じゃないか。そんな所に昼食とは、流石は名を知らぬ者は居ない有名レコード会社の社長だけはある。自然、驚きと羨ましさに表情は崩れ、今自分がどんな顔をしているのか、俺は分からなくなった。
 そういう訳っすから、ちょっと帰ってくるの遅れるかもしれないっす。すんません店長、先輩、醤油呑み星人さん、そん時は悪いんですけどよろしくお願いします。了解了解、なんだかよく分からないけど、大事な人と会うんだよね。頑張っておいで。B太からまだ詳しく話を聞かされていないのか、店長はいつもの何も分かっていなければ緊張感のない笑顔をB太に向ける。いい感じに話が進むといいなと、事情を知っている俺は、B太に励ましの言葉と激震の笑顔を向けた。金色のトサカで風を切って頷くと、B太は俺たちに背を向けて、コンビニを出て行った。しかし、高級料亭にモヒカンか、入れるのだろうかな。よく見ればネクタイもスーツも着ていないけれども。
 さて、それじゃぁそろそろ仕事をしましょうかと、半裸の店長が居る給湯室に背を向ける。すると、できました、できましたよ、お兄さんと、子供の様に嬉々と目を光らせた味噌舐め星人が走ってやってきた。とても綺麗にできましたから見てください。商品を陳列したくらいでいちいち呼ばれていたら、自分の仕事などできはしない、とは思ったが、不器用な彼女の言う綺麗がどれほどの物か気になり、俺は彼女に誘われるままカウンターから出た。