「味噌舐め星人の陳列」


 入れ替わりに醤油呑み星人が脱衣スペースに入ったのを見届けると、俺は真新しい制服姿の味噌舐め星人を連れて事務室を出て、倉庫を通り抜けてレジへと向かった。ポスを使って商品の在庫確認をしていたB太と、給湯室の椅子に座ってつまらなさそうに漫画を読んでいた店長が、俺たちに気づいてすぐに顔を上げた。おぉ、似合っているじゃない、こんな看板娘が居るとなればウチもますます繁盛だね。忙しすぎて手が回らないから雇ったのに、これ以上忙しくしてどうするつもりなんだよ。いつものように鼻の下を伸ばしてデレ、給湯室から出てきた店長に、それとなくため息を投げかけると俺は給湯室に入った。そうして鞄の中から制服を取り出すと、急いで着替えた。倉庫からレジまで歩いて来たが、どうにもいつもの時間帯と比べると人の入りが多い気がする。レジの応対も大変そうだが、それにも増して商品の陳列に今日は大忙しだろう。制服に着替え終えると、俺は一息つく間も惜しんで給湯室を出る。B太や店長と仲良く会話する味噌舐め星人の背中の襟を引っ張ると、ダベってないで仕事をするぞ、と、楽しそうに笑う彼女に言った。
 とりあえず、礼儀知らずというか、言葉を知らない味噌舐め星人に、レジでの仕事はまだ無理だ。商品陳列なんかの仕事程度なら、店長でもできるのだ彼女でもなんとかできるだろう。とりあえず、コンビニで一番商品の消耗が激しい、おにぎりお弁当について陳列方法を教えることにしよう。味噌舐め星人を引き連れて俺はレジを出ると、出てすぐの所にあるおにぎりお弁当コーナーの前に立った。まだ補充の配達は来ていない。既に時刻は昼前に差し掛かり、おにぎりコーナーは半分以上が売れてしまっていた。良いか。上段にはおにぎり、下段にはお弁当だ。どちらも、基本的に安くて小さい物を上の棚にして置いていけ、下の棚に行くほど高くて大きい者になるように、だ。まぁ多少の例外はあるが、基本はこれだ。はいはい、お兄さん、このお寿司と巻き寿司は、お弁当ですか、おにぎりですか。そうだ、お前がどっちか分からず疑問に思ったように、おにぎりとお弁当の中間になるように置け。じゃぁじゃぁ、この鱒寿司は、おにぎりですか、お弁当ですか、お寿司ですか。それはおにぎりとお寿司の間だ。ある程度ジャンルが揃ってれば何でも良い。分かりました、と、分かってなさそうに真剣な顔をして味噌舐め星人は言った。まぁ、最初から彼女の働きには期待していない。適度にポカをやって、早々に店長から暇を貰っていただければ、こちらとしては万々歳だった。
 次はパンだ。良いか。惣菜パンは上、菓子パンは下が基本だ。コンビにオリジナルのパンをレジ近くに置いて、パン会社のパンはなるべく奥に置け。あと、売れ筋商品は菓子パン惣菜パン関係なく上だ。売れ筋商品は、醤油呑み星人達が書いたポップが貼ってあるから、それを目印に配置しろ。
 はい、お兄さん、あのあの、オリジナルのパンと、パン会社のパンって、どれの事ですか、どう見分ければ良いんですか。俺は棚から一つコンビニオリジナルのパンを掴むと、このパッケージがオリジナルだと彼女に言った。すると、なるほど、それがパンなんですね、分かりましたと、やけに神妙な顔をして味噌舐め星人は頷いた。パンが何かも分からないのか、お前は。