「味噌舐め星人の気性」


 翌朝、俺は妙な寝苦しさと共に目を覚ました。まるで体を何かに拘束されているようなそんな感覚。瞼を擦り上げてよく見ると、ちょうど顔の先に、味噌舐め星人の頭があった。俺が寝ている間に布団の中に潜り込んできたらしい。胸の上から脇を通し、もう片方の腕を首の後ろに通して器用に抱きしめるとは、寝ぼけてやったにしても随分と器用な事じゃないか。
 無意識かつ無遠慮に体を押し当ててくる味噌舐め星人に、少なからず劣情を覚えた俺は、急いで彼女から体を離す。布団をそのままにして起き上がると、壁にかけられた時計を見上げて時間を確認した。時刻は八時半の手前。まだ出勤時間ではないが、そろそろ色々と準備をし出さなければならない頃合いだった。とりあえず、ご飯を作る事にしよう。朝ということもあって、なかなかな治まらない下半身の高まりを感じながら、俺は台所で顔を洗い、朝食の準備を始めた。今日はみそ汁にしよう。いや、今日はも何もないか。
 昨日作ったトマトソースの事を思い出しながら、俺は小鍋でお茶椀二つ分のお湯を茹でる。俺としてはしっかり洗ったつもりだが、トマト成分が染み出してきたら。なんて思うと、少し食欲が失せた。まぁ、そんな事はまずないだろうと、良い塩梅に気泡を浮かせ始めた鍋の湯の中に味噌を投入する。うぅっ、朝ですか、朝ご飯ですか。味噌の香りに誘われて、味噌舐め星人がお目覚めになられたようだ。握りこぶしで猫が顔を洗うようにして瞼を擦ると、彼女は辺りを見回すように首をゆっくりと振った。おはようございますお兄さん。朝ご飯はまだですか。まだですよ、と、俺は自分でもそれと分かる程に飽きれた声色で味噌舐め星人に言った。朝、俺が起きる前に起きて、みそ汁作るくらいの仕事はしてほしい。こいつは、良いお嫁さんにはなれないだろうな。まぁ、なれなかったらなれなかったで、それでも構わないが。
 味噌汁の入ったお椀と、ご飯が盛られたお椀をちゃぶ台の上に載せる。箸を手に持ち手を合わせると、礼儀正しくいただきます。そして、礼儀正しくなく忙しなく口にみそ汁をかき入れる味噌舐め星人。そうせっつくなよ、女の子がみっともない。注意をしてもまったく聞く耳を持たない彼女にはもう呆れる他ない。俺は彼女が忙しく飲む味噌汁に口をつけると、ゆっくりとすすってみた。そう言えば、この味噌は、昨日買ってきた新しい味噌だ。なるほど彼女がちょっと必死になって食べるのもなんとなく分かったような気がしたが。しかし、スーパーで売っている味噌一つで、そんなに必死になるようなことかねと、俺は冷めた感じに口内の熱い味噌汁を飲み下した。
 はぁ、ごちそうさまでした。お兄さんの作るお味噌汁はやっぱり美味しいですね。そうかいそれはおそまつさま。すっかりと居候根性の座った味噌舐め星人のお世辞を苦々しく思いながら、俺は朝食で使った食器を洗う。今のうちに洗っておかないと、彼女は決して洗ってくれないし、俺も夜まで帰らないのだから、このタイミングでやるしかない。やれやれ、今から仕事だってのに、誰かさんのおかげで大忙しだよ。なんて、愚痴の一つもこぼれる。何言ってるんですか、お兄さん、私も、今日から一緒にお仕事なんですよ。こいつ昨日の話を本気にしている。俺は大きなため息を堪えれずに吐いた。