「味噌舐め星人の代打」


 結局、トマトソースのスパゲティは味噌ソースのスパゲティと化した。味噌の茶色とトマトの赤色が怪しく混ざりあったそれは、俺が想像した通り、一目に食欲がなくなりそうな酷い見栄えの物だった。まぁ、頑張ればカレースパゲティに見えない事もない、が、味噌の香りに混ざってトマトの甘酸っぱい香りが漂ってくれば、完全に戦意を喪失させることうけあいだ。見た目も匂いも凶器その物となれば、その味も自ずと判断できるというもの。食べますかと、爽やかな微笑みと共にトマト味噌ソースのスパゲティを俺に向ける味噌舐め星人に、ノーサンキューと俺は静かに首を横に振ってみせた。
 食べ終わる頃には、バラエティ番組が充実している時間だった。俺はテレビの電源を入れると、クイズ番組にチャンネルを合わせた。大掛かりな舞台装置の上で予定調和なアクションをするバラエティは、どうにも笑いと笑いとの間合いが長すぎてついていけない。それよりかは、クイズ番組で芸能人達のトークを楽しみつつ、自分もクイズをする方が、よっぽど楽しめる。という人が多いのだろうか、最近はクイズ番組ばかりだな、と、自分でつけておきながら、俺は対して番組も見ようともせず、何故クイズ番組が最近多いのかなんていう、どうでもいいことを考えいていた。バラエティ番組もドラマも、正直な所、俺はそこまで熱心に見る方じゃない。暇つぶし程度だ。
 一方で、味噌舐め星人はと言えば、クイズ番組の答えを一緒になって考えて、答えが出るや一喜一憂という有様であった。番組が提供するクイズの趣旨は、常識クイズであり、非常識な彼女にしては、俺が見ている限りは、正答率は半分以上はあるようだった。その常識力をもう少し、俺たちの日常生活の中で発揮してくれたなら、生活は助かるのだけれども。まぁ、そんな皮肉はよしておくとしよう。俺は、味噌舐め星人が食べ終えた皿を、自分のさらに重ねると、台所に向かう。そして、蛇口を捻り、水を銀色をした桶の中に貯めるとその中にスプーンやフォーク、皿にソースを作った鍋などを放り入れて、スポンジを手に握った。洗剤が入った薄緑色の容器を逆さまにして握り、液体洗剤をスポンジに染み込ませると、揉みしだいて泡立たせる。レモンの良い香りが俺の鼻をくすぐる。桶の中から一枚、皿を取り出してスポンジで拭ってみせれば、赤色に汚れていた皿は、薄紅色の泡に包まれた。
 お兄さん、お兄さん、お兄さん、そんなにいつまでもお仕事してたらクイズが終わっちゃいますよ。ねぇ、一緒にみましょうよ、面白いですよ。馬鹿野郎、汚れがこびり付いてからじゃ遅いんだ、早く洗っちまうにこしたことはないよ。皿を洗う手を緩めずに、俺は味噌舐め星人を軽く怒鳴りつけた。まったく居候が家主に家事を押し付けて、てめぇはテレビに夢中ときたもんだ、そこは少しくらいは手伝おうって気にならないものかねぇ。せめて皿の一つでも運んでもらえれば楽なのだけれども。とまぁ、彼女の怠惰というかお嬢様気質は今に始まった事ではない。いちいち目くじらを立てるよりも早く片付けた方がいいだろう。ねぇ、お兄さん、一緒に見ましょう、見ましょうよぉ、と、猫なで声で言う味噌舐め星人を軽く無視して、俺はせっせと皿を洗った。洗剤の匂いに混じって漂う、トマト味噌の匂いに辟易しながら。