「味噌舐め星人の馬頭」


 言っておくがな、お前は誰の金で飯を食べてるって言うんだ。俺のお金だろう。多少のおねだりは聞いてやるよ、そりゃまぁ、家族だから。けれどもだ、基本的にその商品を買う買わないは、金を払う俺の自由、俺の裁量だ。分かるよなそれくらいは。彼女の顔を見れば、相変わらず分かりません、という顔をしていた。仄かな怒りの感情が顔にのっていた。まずい、これは、再び癇癪モードだ。味噌舐め星人は俺を睨みつけると、ずるいですずるいですと叫んで俺の胸にその小さな拳をリズミカルに叩きつけた。酷いです攻撃の上位技、ずるいです攻撃だ。まてまて、何がどうずるいというのだ。駄々をこねれば買ってもらえると思ってる癖に、お前のしてることのがこずるいだろうが。この女の理不尽な怒り、というかヒステリックには、ミリンちゃんとの長年に渡る対立を乗り越えた俺でも、ほとほと耐えかねる程に、完膚なきまでに、これでもかと、とてもうんざりとさせてくれたのだった。
 ずるいですずるいです。だってだって、お兄さんはお仕事してるからお金いっぱいですけど、私は学生だからお仕事できないですよ。お仕事できないからお金ないんですよ。好きな物買えないからお兄さんにおねだりするしかないじゃないですか。いや、その理屈はおかしい、お金が欲しいならバイトなりなんなりすれば良いじゃないか。だいたいお前は自分の事を学生って言うが、学校に通っている姿なんて、俺は一度も見たことないぞ。いいんですいいんです、そんなことはいいんです。一方的に他者を悪者扱いする、酷いです攻撃から、自分を棚に上げるいいんです攻撃に方針変換した味噌舐め星人。眉をVの字に険しくすると、彼女は俺の胸を叩く手を止めて、掌を開いた状態で右手を俺の顔の前へと突き出した。だから、お兄さん、お小遣いをください。好きなもの買えないから、お小遣いをください。ははっ、この馬鹿妹は、ついさっき怒られたばかいりだというのに、ここに来て小遣いをせびってくるだと。なんつう図太い根性しとるのだ。誰がくれてやるかと、俺は彼女のつむじに向かって味噌パックの入っているレジ袋を落とした。
 だってだって、だってだって。私もいっぱいいっぱい欲しい物があるんです。お味噌お腹いっぱい食べたいんです。なのになのに、お兄さんはなんで私にお小遣いくれないんですか、私は妹なんですよ。お兄さん、みーちゃんとちがって服も買ってくれないし、お味噌だって買ってくれないし。ケチンボだから、お兄さんケチンボだから、私とってもひもじい思いしてるんですよ。お兄さんのケチンボ、あうあう、載せないでください、重たいです重たいです、レジ袋重たいです。確かに今着てるコートは、ミリンちゃんが買った奴だが、その下に着ている服は俺が買ってやった奴だろうが。お前が味噌を遠慮なしに食ってくれるから、ここ最近というもの、週に一度は味噌を買いに行ってる事実に、お前は気づいてて物言ってんのか。レジ袋の中の牛乳パック、その角で俺は味噌舐め星人のつむじを押した。ひゃぁと声を上げ、驚いた味噌舐め星人はしりもちをついた。そしてまた、俺に向かって反抗的な目を向ける。やれやれ、そんな目をするくらい欲しい物があるなら、お前もバイトすれば良いだろう。根性の使いどころって奴を間違えてんだよ。