「お寝ぼけ星人の朝食」


 鎌首を擡げた王蟲と対面して俺はちゃぶ台に座った。とりあえず、食べる時くらいは布団を脱げよと注意すると、だらしなく行儀も悪いお寝ぼけ星人は、嫌です脱いだらさむさむですと布団の端を握りこんだ。味噌そぼろでも飛ばして汚されてはたまらない、良いから脱げよと俺は彼女の背中に回りこみ、無理やり布団を引っ張ってみた。しかし、案外に強い力で引っ張り返されてしまい、結局、俺は彼女から布団を剥がすことができなかった。
 分かったよ、分かった、ストーブ使っていいからさ、頼むから布団を脱いでくれ。彼女の根性に俺が折れた。部屋の端に置かれた電気ストーブを俺は指さして、俺は味噌舐め星人に言った。その言葉をまってましたと言わんばかり、彼女は布団を跳ね飛ばすように脱ぐと、すぐさま電気ストーブを抱えてこっちにやってきた。そして、自分の座っている座布団の横に置くと、満面の笑みで正座して、手を合わせて。いただきますます、さぁ、食べましょうお兄さん、ご飯冷めちゃいます。やれやれ、誰のせいで待たされたと思っているのか、この女は。怒る気力も沸いてこない。とりあえず、あんまり近づけすぎると電気ストーブでも引火ずるぞと注意して、俺は丼を持った。
 味噌そぼろ丼は我ながらそこそこに美味しかった。味噌舐め星人もお気に召してくれたらしく、はしたなくご飯粒を辺りにまき散らして、豪快に食べてくれた。やはり布団を脱がせて良かったと思う。おかわり、お兄さん、これおかわりです、もっと食べたいです、おかわりお願いします。俺よりも早く丼を食べ終えた味噌舐め星人は、口の回りに味噌そぼろをべったりとくっつけて、満面の笑みでおかわりの要求をした。おかわりなんてあるわけないだろう、それで全部だよ。まったく、もうちょっと味わって食えよな。テーブルの上に置かれたティッシュ箱から、二、三枚ティッシュを引き抜くと、重ねたまま味噌舐め星人の口元を拭う。だいたい、女の子なんだから、味噌舐める時も、こうして普通にご飯食べる時も、もう少し品よく食べろよ。あうあう、痛いですよ、痛いです、そんなに強く擦ったら切れちゃいますよ。俺に口元を拭われて彼女は顔を歪める。そんなに拭われるのが嫌なのなら、拭われないような食べ方をしろと、俺は唇を擦る手に更に力を込めた。
 食べ終わり食器をダイニングに放り込む。蛇口を捻って丼の中に水を張ると、俺は湯のみを二つ手に取り、急須の中にお茶っ葉を放り込んだ。ポットから温いお湯を急須の中に注ぎ入れると、湯のみ二つを左手に、急須を右手に持ってテーブルに戻った。お茶っ葉からお茶が滲み出るのを助けるべく、急須を上から見て円を描くようにして揺らすこと一分。もういいかと、まずは味噌舐め星人の湯のみに注ぐと、薄い色のお茶が出た。やはり安物のお茶では出が悪いな。俺の湯のみに注ぐのはもう少し待つことにしよう。俺の正面に、足を崩し昼飯で膨れ上がった腹を抱えながら、幸せそうな顔をしている味噌舐め星人に、俺は出の悪いお茶を差し出した。彼女は特にお茶の薄さを気にするでもなく湯のみを受け取ると、ちびちびと口に運んで飲んだ。
 お兄さん、今日はお仕事お休みなんですよね。それじゃぁ、今日は一緒に居れますね。嬉々と言う味噌舐め星人に、あぁ、と、短く俺は返事をした。