「魔法少女風味ミリンちゃんは帰宅する」


 読んでないんすか、そいじゃ仕方ないっすね、また今度遊びに来る時にでも持ってきてあげるっすよ。あ、そいじゃ一緒に、天も持ってくるっすね。あれも良い作品ですよ、オヌヌメっす、是非読んでくださいっす。いや、別に持ってきていらんから、遊びにきてもいらんから。たった一日で、夢に入られたくらいで、もう友達になった気でいるビネガーちゃん。この勘違い野郎に釘を刺すには、はたしてどういう言葉を返したらいいものか。考え倦ね居ている内に、部屋の扉が開いた。眠たげにまぶたを握った拳で擦りつつ、辺りを見回すミリンちゃん。お兄ちゃん、どこですか、私もお姉ちゃんさんも起きたので、そろそろご飯の準備をして欲しいのです。なんともまぁ、現金でわがままな要求だったが、このどうしようもない流れをリセットするにはもってこいだった。ここだよと、俺は立ち上がると、ビネガーちゃんを置いてきぼりにしてミリンちゃんの元へと向かう。起き上がってすぐのため少し逆立ったミリンちゃんの髪を直すようにして撫でると、部屋の中へ入る。入ってすぐの所で、味噌舐め星人は布団の上で足を崩して座り、心ここにあらずという感じに虚空を見つめ、口から涎をだらしなく滴らしていた。その頭をミリンちゃんと同じように軽く撫でると、俺は台所に立った。
 豆腐の入っていないわかめだけの味噌汁。もういい加減、本当に、今日こそ、買出しに行って食料を買ってこよう。こんな物を食べていたのでは、まともに働けやしない。こんな朝食じゃ、お仕事できないのです、お兄ちゃんもっとまともな食事は作れないのですか。誰のせいでこんな食事になっていると思っているのだろうか。お前に言われたくないよとミリンちゃんの頭を軽く小突く。頬を小さく膨らませてこちらを睨むミリンちゃん。その瞳の中にどこか嬉しさが混じっているように俺には感じられて、再び、俺は彼女の頭を小突いた。まぁ、体調不良で彼女自体は動けなかったのだから、そこは加減してやったつもりだ。その証拠に、今度はミリンちゃんの顔に、確かな笑顔が浮かんでいた。酷いですよ、酷いです、お兄さん酷いです。ミーちゃんは風邪で大変だったのに、お買い物なんていけないんですよ、あたぁっ。だったらお前がしっかりとお買い物に行ってこいよ、お姉ちゃんさん。俺は味噌舐め星人に、ありったけの力を込め、でこピンをお見舞いしてやった。
 それから四人でテレビを見て、二時間ほど過ごした。日も登りきり、ようやく外が騒がしくなってきた頃合いを見計らって、それじゃぁ、そろそろアタシとミリンちゃん先輩はお仕事の時間っすからと、ビネガーちゃんが立ち上がった。そうですね、そろそろ、お仕事の時間なのです。そう言うと、少し寂しそうな顔つきで立ち上がったミリンちゃんは、それじゃぁ、お兄ちゃん、バイバイなのですと笑って挨拶をした。お邪魔したっす、またその内にミリンちゃん先輩と遊びに来るっすと、相変わらず遊びに来るのを諦めていないビネガーちゃん。そのまま彼女達を行かせてもよかったのだが、なんだか、それで別れるのは、今日はもったいない気がして、俺は立ち上がると、送るよ、と、彼女達の後ろに続く。気持ちよさそうに寝息を立て、二度寝を楽しむ味噌舐め星人を起こさないように気をつけながら、俺達は家を出た。