「魔法少女ビネガーチャンは先輩を敬う」


 ヘイ、ヘイヘイ、ユー達いい度胸じゃないのよさ。私という物がありながら、置いてきぼりにしていくとはいい度胸じゃないの。ちょっと痺れちゃったわよ、塗れちゃったわよ、起きたら真っ暗で誰も居なかったもんだから。知っているかしら、アタシはね、寂しくても怖くても寒くても死んじゃうんですよ。てめえらシグルイを読んだことねえのかよ、人は恐怖でも死んじまうんだぜ、ちくしょう、鬼だ、あんたら鬼だよこんちくしょう。こんないたいけな女の子を暗い部屋に置き去りにしてどっかいっちまうだなんて。しかもそのほくほく顔。どうせ出かけた先で飯でも食ってきたんだろう。いいよないいよな、お金持ちはさぁ、アタシャここ数日パンの耳をお湯で溶かしたスープしか食べてないってのによう。クルトンスープですよ、ダシはイースト菌と小麦粉だっての、コショウもお塩も切らしてんの。つまりね、アタシが何を言いたいかってとね、ミリンちゃん先輩酷いっす。どこか食いにいくならアタシも連れて行ってくだせえよ。水臭えっすよ、先輩なのにぃっ。
 ビネガーちゃんは俺たちに発言する間も与えず、激しくかつ独壇場に怒鳴り散らすと、拗ねて布団の上に大の字で寝転がった。なんともまぁ、テレビのCMとは随分と感じが違う。この元気系空振り三振少女をどんな風に編集すれば、一家団欒の場で流れてもちょっといい感じのCMに仕上がるのだろうか。いや、そもそもあれもそんなに感じの良いCMでもなかったか。それにしたってこんな女をアイドルとして抜擢するなんて、ミリンちゃんの時もどうかと思ったが、食品会社の株主や役員の頭は、大丈夫なのだろうか。
 ビネガーちゃん、お兄ちゃんやお姉ちゃんさんが呆れてるのです。そういうのは止めてくださいなのです。ミリンちゃんが、久しぶりに空気を読んでビネガーちゃんを止めた。なに言ってるっすか、アタシから元気と愛と勇気と友達をなくしたら、アンの入ってないアンパン、ごまふりかけパンマンになっちゃうじゃないっすか。セサミン効果でなんか色々とパワーアップしそうっすけど、生憎、ここん所アタシは会社から支給されたお酢の力に便りっぱなしで、そんなのは小指の爪の先ほども煎じて食べてねえっすよ。なのにそれじゃぁ、詐欺なんちゃうんけ。アンパンマン詐欺なんちゃうんけぇ。
 無駄に元気なビネガーちゃん。何とかして彼女をもう一度、眠らせる事は出来ないものか。このままじゃ五月蝿くて、帰ってもらわないことには眠れもしないぞと、俺は少し頭が痛くなった。お兄ちゃん、安心してください。このおバカさんは先輩の私が、ちゃんと言い聞かせて追い返しますので。そういうと、ミリンちゃんはいつになくどうどうとした感じに胸を張り、ビネガーチャンの前にたった。ビネガーチャン、せっかくお兄ちゃんとお姉ちゃんさんとプライベートを楽しんでいる所に、よくも邪魔しに来てくれたですね。社長さんに言いつけて、仕事減らしてもらっても、こっちはいっこうに構わないのですよ。そ、そ、それは困るっす。李までさえ生活ギリギリだってのに、これ以上生活を締め付けられたら、血を売らなくちゃいけなくなっちまうのです。そいつだけは勘弁、早く真っ当に生きたいよベム・ベラ・ベローン。勘弁してくださいっすと、ビネガーチャンはあっさり土下座した。