「魔法少女風味ミリンちゃんは物静かな女の子なのか?」


 味噌舐め星人だけを別世界に隔離して、俺たちの周りに剣呑な空気が広がる。とりあえず、こんな場所にずっと居ては耐えられないなと、俺は席を立つとドリンクバーに向かった。敵地に一人取り残されるのが不安なのか、ミリンちゃんも俺に続く。なんなのですか、あの傲慢チキチキなお姉さんは、あんな面倒くさそうな人と、よく一緒に仕事できますねお兄ちゃんさん。そうだな、まぁ、俺の周りには面倒な奴等が多いからな、今更彼女一人増えた所でどうということはないよ。その面倒な奴等の内にミリンちゃんも含まれているのだが、彼女がそのことに気づいている様子は少しもなかった。自分が一番まともだと思っている奴に、例外なくまともな奴などいない。ミリンちゃんも、醤油呑み星人も、言っていることは大層理には叶っているが、そこに人間的な心がないという点で、よく似ているように俺には感じられた。もっとも、醤油呑み星人に関しては、どことなくその事実に自分でも気づいていて、多少なりとも言葉に気をつかっているようには感じられはしたが。
 まぁ、喋りたくないというなら喋らなくても良いよ。所詮、彼らは俺の同僚であってお前にはなんの関係のない人間だからな。ただまぁ、挨拶くらいはしてやって欲しかったが。意地っ張りな彼女の事だ、ふんっと鼻を鳴らしてつっぱねるかと思ったが、ごめんなさい、なのですと、ミリンちゃんにしては少ししおらしく謝ってきた。どうしたよ、お前らしくもないと言うと、これまたミリンちゃんにしては珍しく、俺が着ているシャツをその小さな手で掴んで、不安そうに俯いた。醤油呑み星人の言葉が堪えたのだろうか。あまり気にするな、あのおばさんはな、普段から口が悪いから。それは分かっているのですと呟いたミリンちゃんの声は、なぜだか涙声になっていた。
 今まで散々にミリンちゃんには酷い目に会わされてきたが、それでも彼女が泣かされたとなれば、どこからともなく怒りがこみ上げてくるのだから、兄妹というのは不思議なものだ。子供相手にそんなムキになることもないだろうにと、水を汲んでテーブルに戻る途中には、俺は醤油呑み星人に文句の一つでも言ってやろうという気分になっていた。そして、席につき、テーブルに水が並々と満ちたグラスを置くと、隣の席でいかにもお店で作りましたという感じの醤油ラーメンを、勢いよく音を立ててすすっている醤油呑み星人に、ちょっと良いかと俺は声をかけた。なによ、手早く済ましてくれる、せっかくのラーメンが伸びちゃうから。まったく、勝手な物言いだね。
 まぁ、俺の妹に怒ってくれるのは無理もない。俺だって、こいつの傲岸不遜な態度にはほとほと業を煮やしてるからな。けどまぁ、それでも相手は年端もいかない女の子、人見知りだって激しい年頃だ、大人なんだから少しは加減してやってくれるか。遠回しに、大人げないぞと俺は醤油呑み星人を責めた。たいして、やはり精神の図太い醤油呑み星人は、たいして気にかける様子もなく澄ました顔でラーメンのスープを飲みきると、その冷たげな瞳を俺たちに向けた。そんなの、大人も子供も関係ないわ。言いたいことがあるのなら、黙ってないで、人の口を頼らないで、自分の口で言いなさいよ。
 孤独を気取って黙ってたって、周りは少しも良くならないんだからね。