「魔法少女風味ミリンちゃんは、兄と後輩を天秤にかける」


 とりあえず、飯時にはちょうど良い時間だ。かと言って俺の居ない間に台所は酷い有様になっているし、冷蔵庫の中身もおそらく変わってはいないだろう。一応扉を開けて冷蔵庫の中を確認してみる。味噌が真新しくなっている以外は、特に何も変わっていない。じゃぁいったい、彼女達は何を作ってこんなに台所を汚したのかという話だ。しかし、その時ちょうど、俺が考えるのを邪魔するように味噌舐め星人の腹が鳴ったので、俺はそんな事は後回しにして、とりあえずなにか外へ食べにいく事にした。それは、この休日を一緒に過ごすつもりだった味噌舐め星人への謝罪でもあり、ミリンちゃんをちゃんとした医者にかからせるついででもあった。携帯電話のディスプレイに表示されたデジタル時計は、もうすぐ街中に夕焼けこやけのメロディーが流れ出しそうな時刻を示している。ミリンちゃんを医者に連れていくには、少し急がなくては。意識を失いだらしなく口を大きく開けて白目を剥いている、布団に転がっているミリンちゃんの後輩を、放っておくことに決めた俺は、外出するぞと味噌舐め星人に声をかけると、ミリンちゃんを抱えたまま部屋の外へ出た。やめ、やめろなのです、いや、やめっ、へくちょんっ。
 お兄さん、ミーちゃんそんな格好じゃ風邪ひいちゃいますよ。お外はさむさむなんですから。ほら、これを着せて、お兄さんも。味噌舐め星人はどこから見つけてきたのか、白い毛皮の子供用のコートをミリンちゃんにかぶせる。ついでに、壁にかかっている、先ほど俺が鍵を取り出したコートを、俺の背中にかぶせた。有難う。俺はミリンちゃんをゆっくりと降ろすと、彼女がかけてくれたコートに袖を通した。一方、とうの彼女はといえば、いつぞやミリンちゃんに買ってもらった暖かそうな黒いコートを羽織っていた。
 ま、また油断したですねお兄ちゃんさん。どこへ行くつもりかは知りませんけど、私は絶対に行かないのです。行くならお姉ちゃんさんと二人で、勝手に行ってくるのです。へろへろとした足取りで、部屋の扉の前に移動したミリンちゃんは、子供っぽい仕草で舌を出すと部屋の扉を閉めて閉じこもった。やれやれ、まったく、お前という奴は、本当に馬鹿な奴だな。俺は呆れてため息を吐いた。なんなのですそのため息は、お兄ちゃんさんの馬鹿さ加減にため息を吐きたいのはこっちなのですよ。長い台詞を言って、えほえほとむせかるミリンちゃんに、俺は諭すような口調でこう言った。まぁ、別にそこに居たいのなら好きなだけ居たらいいが、お前の大好きなお姉ちゃんさんは今外にいるし、代わりに部屋の中にはお前の嫌いな後輩さんだがね。
 まったく、なんであんな奴を連れてきたのですか。あんなのと一緒に居たら命がいくつあっても足りないのですよ。俺の背中で小さく呟くと、ミリンチャンは俺の髪の毛を強く握った。結局、ミリンちゃんは抵抗虚しく部屋から出てきて、俺と味噌舐め星人と一緒に外出することになった。といっても既にフラフラの彼女に道を歩ける力があるはずもなく、仕方なくお兄ちゃんさんたる俺が彼女をおぶっていくことになったのだが。それにしても、おんぶを提案したとき、もっと渋るかと思ったが、意外に素直に受け入れたものだ。それくらいには、自分の状況を理解できる余裕はあるのだろう。