「ビネガーちゃんはルパーン賛成の反対」


 全員動くなっ、頭を潰れたトマトのようにされたくなかったら、手を上げて銃を下に落せ。ふははっ、ようやく捕まえたぞルパーンことミリンちゃん先輩。ったくもーう、何勝手に居なくなってるんすか、心配したんっすよ。風邪ひいちゃったんですって。ぐふふふ、仕方ないっすね、それならば、このアッシが一つ、体をはってというか体を使ってというか、甲斐甲斐しく看病してあげようじゃあーりませんか。というわけでですね、ここで最初のルパーンネタが生きてくる訳ですよ、ずぱずぱっと服を脱いで、とーりゃっ、ふーじこちゃーんってな、ルパーンダイブ、はにゃみらっ。変な声と変な音を立てて、ビネガーちゃんは畳の上に転がった。服はもちろん脱いでない。
 病人に向かって何するんですか、というか、なに勝手にこんな所まで来てるんですか。帰ってくださいなのです。来ないでくださいなのです。俺に接するときと違って幾分余裕のない感じに、ミリンちゃんがビネガーちゃんを蹴飛ばした。蹴れる程度に元気があるってことは、ちょっとくらい激しくしても大丈夫ですねー。うひひっ、今夜は寝かせてあげないっすよ。どう見てもエロ親父である。うりゃさとミリンちゃんを捕獲すると、ビネガーちゃんは宣言どおり、彼女の体をくすぐり始めた。やっ、やめるのですっ、ビネがひゃぁっ。こっちは、風邪ひいにぇる、にょ、うひゃっ、あにゃぁっ。ほれほれほれー、ここがええのんか、ここがええのんですかぁ、先輩ぃい。どうしましょうお兄さん、ミーちゃんが突然現れた変な人に捕まって、苦しそうにしてますよ。助けてくださいよお兄さん、助けてあげましょうよ。なんというか、もう何がなんやら俺の頭の中でも整理が追いつかない。布団の上ではミリンちゃんを足でホールドしたビネガーちゃんが、指先と体全体を使ってミリンちゃんをくすぐりにかけ。その対角線上の部屋の端では、おろおろと味噌舐め星人が、ドア付近の俺とミリンちゃん達を交互に見つめて、何かしらを訴えかけてくる。一日帰らなかっただけで、台所は再びジャングルと化していて、とても味噌臭い。もうなにがなにやら、どうしたらいいのか。とりあえず騒音の元であるビネガーちゃんを何とかしようと、俺は台所近くに置いてあったフライパンを持ち上げると、ミリンちゃんと密着している彼女のその頭を軽くフライパンのの底で叩いた。コーンと、実の詰まっていないスイカのようなよく響く音がして、ビネガーちゃんは畳の上に倒れた。
 さて、どうしたものかね。騒がしいのはなんとかなったが、状況は未だカオスのままだ。とりあえず、部屋の扉を閉めて、ジャケットの中から予備の鍵を取り出すと、俺はふうとため息をついた。まったく、やってくれるよ。こっちがどれだけ心配したと思っているんだ、えぇっ、ミリンちゃんよ。意外にも一番に俺の口を吐いて出たのは、ミリンちゃんへの皮肉だった。
 心配してくれない。やっぱり、薄情者のお兄ちゃんさんです。頬を膨らませてそっぽを向くミリンちゃんを、気絶するビネガーちゃんの手の中から救い出すと、俺はその頭をやさしく撫でた。心配しない訳がないだろうかと、思ったが、言葉は出なかったが。はたして俺はツンデレなのか、それとも本当にミリンちゃんを嫌っているのか、今一つはっきりしない感じだな。