「醤油呑み星人の切開」


 アンタも相当嫌われたものね。まぁ、私がアンタの妹だとしても、きっと嫌いになるだろうけど。そうかい、それは是非ともなんで嫌われるのか教えていただきたいね。決まっているじゃない、アンタみたいな独りよがり親切押し付け勝手に深刻お兄ちゃんなんて、相手するのがウザったいのよ。酷い言われようだなと、笑いがこみ上げてきた。お前に親切の押し付けなんてしたっけか、寧ろ、お前から何かにつけて世話されることの方が多い気がするんだけれどと返すと、されたことないわよ、ただ何となく、アンタってそういう感じがするから言ってみただけと、醤油呑み星人は言った。ふぅん、そんな反応をするってことは、本当にそうなのかしらと怪しく微笑む彼女を、俺は本当に嫌な奴だと心の中で舌打ちした。まったく、食えない女だよ。
 それにしても、なんでそんなに妹さんに嫌われてる訳。昨日、店長と話しているの聞いてたけれど、妹さん風邪ひいてるのよね。そんな状態で、世話してくれるアンタを追い出すだなんて、相当嫌われてるじゃない。何があったのよ、まさか、襲ったんじゃないでしょうね。まさかそんな、実の妹を、けどうぅん、アンタならやりかねないから困るわね。やるわけないだろう、何を言っているんだと、俺は醤油呑み星人の頭を小突いた。幾ら俺でもそんな獣のようなことはしない。ただ、天に誓って言えるかといえば、時と場合による。現に、もう一人の妹の方には、そういう感情を現在進行形で抱いている訳で。いや、なんとも業の深い兄貴であることは俺も承知している。
 そういえば、俺は何でミリンちゃんに、あれほど毛嫌いされているのだろうか。決して昔は仲の悪い兄妹ではなかったのだ。それなのに、いつの日からか俺たちは急に不仲になってしまった。そうだ、俺は醤油舐め星人が言ったように、ミリンちゃんに対して過去に酷いことをしたのだ。それは間違いない。しかし、いったいどんな酷いことをしたのだろうか。風邪を引いている彼女に家から追い出されるくらいに酷いこととは、いったい何なのだろうか。まだ、顔を合わせられるだけ、その行為は俺が味噌舐め星人や醤油呑み星人にした事よりは幾らかマシなのかもしれない。なぜだろうか、どれだけ考えても、俺の頭の中にはそんな憶測しか浮かんでこなかった。そのミリンちゃんに嫌われてしまう原因となった、具体的な行為の内容を、俺は、どうやっても思い出すことができない。まるでそう、煙草を吸い始めた理由と同じように、俺を守ろうとする何かが、俺の記憶を隠しているようだった。
 気味が悪いなとため息をつく。分からないよと、俺は醤油呑み星人に返事をした。すると、何故だか分からないが、彼女はため息をつき、そんなだからアンタはダメなのよと、俺の頭を先ほどのお礼とばかりに小突いた。
 いいわよ、それじゃ、私が間に入って仲直りさせてあげるわ。たしか、丁度上がりの時間が同じだったでしょう、帰りにアンタの家まで連れていきなさいよ。醤油呑み星人は、また、得意の余計なお世話を存分に発揮させて、得意顔で俺に言ってみせた。お前が来た所でどうにもならんよ、家族の問題だ、それに、上がりはお前の方が一時間遅いだろう。俺が面倒臭くそう言うと、じゃぁ私が上がるまで待ってなさい、牛丼並で良いわと彼女が言った。