「塩舐め星人の淫夢」


 とりあえず、そんな状態だと落ち着かないだろう、洗面所で洗っておいでよ、代わりの下着は洗ってる内に僕がなんとか用意しておくから。頭ごなしに怒るでもなく、あからさまに呆れるでもなく、店長は気の毒そうな顔でB太に言った。て、店長と少し涙目になって言うB太。モヒカンピアスのパンクロッカーにそんな顔をされてもなぁと、俺と店長はまた顔を見合わせた。ありがとうございます、すぐに洗ってくるっすと、言われるや否やすぐに立ち上がり廊下を駆け出したB太。やはり、彼も気持ち悪かったのだろう。
 なんていうか、人の家に来て出しちゃうなんて、若いねB太くん。羨ましいですかとふざけて店長に聞くと、いや、僕もまだまだ若いよと意味の分からない返事をする、三十歳独身。そんな所で張り合われても仕方ない。それにあんたの場合は若いというより、幼いと言うのが適切だろう。心の中で毒づきながら、俺はとりあえずこの布団を片付けてしまいますかと提案した。
 店長と協力して、三つ折りにした布団を押入れにしまう。すべて入れ終えた頃合いに、B太は洗面所から帰ってきた。あぁ、すみません、俺の分まで布団片付けてもらってと恐縮するB太の手には、丸まったトランクスが握られていた。おそらく、汚れを中心にするように丸め込んだのだろう。少なからず経験のある俺には、なんとなくそんな事が分かった。まぁ、良いさ、こういう日もある、あまり気にするなよ。そうだよ、僕なら気にして居ないからさ。俺と店長は己れの失態に慌てふためいているB太をフォローして、とりあえず落ちつかせることにした。あぁ、そうだそうだ、替えの下着が必要だったね。店長はそう言うと、布団をしまった押入れの襖を開けて、膝を折ると、下の棚を調べ始めた。あぁ、あったあったと言って取り出したのは、真新しいビニール包装のトランクス。50%OFFのシールが付いていた。
 まだ使ってないから、これなら気兼なく使えるでしょう。そう言って、店長はB太にトランクスの入った袋を手渡した。いや、逆に新しい方が気兼ねするっすとB太が言うと、大丈夫、それ半額のセール品だからと穏やかな笑顔で店長は返した。だから、そういうことではないのに。店長のマイペースぶりには相変わらず舌を巻いた。しかしながら、自分のお古を何の戸惑いもなく人に履かせるよりは、まだ幾らか紳士的というか常識的だ。背に腹は変えられないだろう、とりあえずそこは貰っておけよと、俺はすかさずB太に声をかけた。少し悩んだが、それじゃぁ、とB太は言って、トランクスを履き替え始めた。しかし、常識的ではあるが、間は悪いな。そんな便利な物があったのなら、B太が洗面所に行く前に渡してやれよ。B太のロッカーらしく鍛えられた男の体を眺めながら、俺は愚痴っぽくそんな事を思った。
 しかし、変な夢を見たか、随分と欲求不満なんだね、流石、若いだけはある。昨日の夜、ミリンちゃんミリンちゃん五月蝿かったからな。で、そのミリンちゃんと夢の中でイチャついてたのか、やれやれ業の深い奴だな。俺は多少の皮肉と多少の憤りを交え、B太をからかった。顔を真っ赤にして俯くB太。しかしその返事は、俺の予想していた台詞と随分違っていた。
 いえ、それが、夢に出てきたのは、まったく知らない人なんですよ。