「店長、ふとんを部下に提供し、しれっと略奪する」


 すぐにコタツを片付けると、棚にしまってある布団を引きずり出し、畳の上に敷き詰める。狭い店長の部屋には二つも布団を敷くと、隙間は見るからに人一人分も無くなってしまい。壁に接する布団の端を下に折り込んで、なんとか三人分の布団を敷くことができた。とりあえず、狭い所はじゃんけんな。文句はないだろうと俺が確認を取るより前に、店長もB太も勝手に布団の上に寝転がり、布団を被っていた。先輩、先輩の尊い犠牲を俺は無駄にしないっす。いやまぁ、なんといってもここ僕の家だしね、そりゃまぁ、広い布団で寝る権利があって当然かと。なるほど、居候は壁の端で身を縮こまらせて、三分の二程しかない布団で寝てろと、そう言いたい訳か、お前ら。
 どれだけ揺すろうが、どれだけ叩こうが、店長もB太も、そこから本の少しも動きはしなかった。朝の弱い味噌舐め星人の世話で、この手の対応にはなれたと思っていたのだが、まだまだらしい。いや、ここが勝手の分かる自分の家だったならば、もうちょっとくらいは強気な行動にも出たかもしれない。たしかに店長の言う通り、今居るのは店長が生活している部屋であり、店長の両親も同居している家であった。そんな場所で、家主に無体を働くなどとはもっての外だ。それに、ただでさえ食事の準備やかたずけやらで、夜遅くまで迷惑をかけている店長の両親に、これ以上無駄に騒いで心配させたくもなければ、その睡眠の妨害もしたくない。どうにも今回は環境が悪かった。何をやっても、いつまで待っても、出てこない店長とB太に、俺はじゃんけんさせるのを諦めて、自分の体の幅ほどの布団の上に、転がった。
 上に被った布団は、昨日と同じく、相変わらずカビ臭い匂いがした。来客用なればこそ、もう少しこまめに洗濯するべきだろうに。電気消すけれど、良いかい。亀のように布団の中から少し顔を出し、人の顔色を伺うようにしてそんなことを尋ねる店長。そんな彼の申し訳なさそうな顔を見て、嗜虐心をくすぐられてしまった俺は、すみません店長、昨日は、せっかく泊めてもらうのにいらないことを言うのは悪いかなと思って、ずっと黙ってたんですけれど、俺って実は、寝るときに電球ついていないと安心できない性格なんですよと、大嘘をついた。別に、真っ暗でも寝れるし、外でだって寝る場所さえ確保できれば構わず寝れる。案外に自分という生き物がしぶといというか、図太い性質を持っているということは、認識しているつもりだった。それでもなぜそんなことを言ったかといえば、おそらく、他人の事など考えずにそそくさといい布団を取った、B太と店長に対する細やかな反抗なのだろう。我ながら何ともせこいというか、発想が貧弱というか、少し情けない。
 えぇ、そうなの、弱ったなぁ。布団を頭に被ったままの姿勢で、天井の電灯からぶら下がっている紐を引っ張りつつ、店長は俺に言った。どうやら彼は俺の嘘を信じてくれているらしい。まぁ、何といっても、店長だからそれはしかたない。問題はB太だなと、ふと手前の布団を見れば、遠慮なしに口から汚らしいアミラーゼを零しつつ、B太が気持ちよさそうに眠っていた。
 あぁっ、魔法少女風味ミリンちゃんだ、なんでこんな所に。さ、サインくださぁい。口から泡とともに、そんな恥ずかしい台詞をB太は吐き出した。