「醤油呑み星人の神拝」


 おいおい、どうしてお前が醤油呑み星人の携帯から電話をかけてくるんだよ。今、いったいどうなっているんだ。醤油呑み星人と一緒なのか、ミリンちゃんはどうしたんだよ、一緒じゃないのか。待ってください、待ってください、そんなにいっぺんに聞かれても答えられません。私のお耳は一つなので、一回に一つしかお願いは聞けません。携帯電話の向こう側の味噌舐め星人はなんだか焦った様子でそんな言葉を口にした。やれやれ、人間ならば耳は大抵二つはついていると思うのだが、そうなると、お前の理論が正しいならば一度に二つの意見を聞けるはずじゃないのか。そんな事を言って苛めてやった所で、彼女がなぜ醤油呑み星人の携帯電話から俺に電話をかけてきたのか、分かる訳でもない。俺が代わりにため息をつくと、ちょっと代わってとあまり昼間から聞きたくない、落ち着き払った女の声が聞こえてきた。
 はい、私よ。ちょっとびっくりしたでしょう、私から電話がかかって来たと思ったら、受話器から聞こえてきたのがこの子の声だったんだから。えっと、簡単に説明してあげるわね。まず、なんで私がこの子と一緒に居るかというと、あぁっ、こらっ、待ちなさい、もうっ、今説明している所なんだから。あとで気が済むまで話させてあげるから。携帯の向こう側で騒がしい音がした。たぶん、携帯電話を取り合って、味噌舐め星人と醤油呑み星人が組み合っているのだろう。小さく聞こえてくる罵りの声をすることもなくただ聞くこと五分弱、ついに決着がついたか醤油呑み星人の声が携帯電話から聞こえてきた。ごめん、ちょっと、この子があんたと話させろってうるさいもんだから、ちょっと手間取っちゃって。ほらっ、静かにしてたらすぐ終わるから我慢なさい。あんたの旦那も静かにしろって言ってるわよ。別に、そんなことは言ってはいない、まぁ、まったく思っていないと言えば、それは確かに嘘になってしまうのだが。というか、誰が誰の旦那だと言うのか。
 まずアンタね、昨日の夜、店長の家に泊まったんでしょう。働いたあと、特に着替えもせず、そのまんま寝て、そのまんま出勤してくるつもりだったんでしょう。あのね、客商売なんだよ、そんな臭いそうな状態で出てこられたらこっちも商売上がったりだよ。お風呂くらいは入ってくるとして、服はどうするのよ。新しい服を買うお金なんてあるの。せいぜい大型スーパーのジーンズ一枚買ったら終了、くらいしかお金持ってないんでしょう。
 たしかに、醤油呑み星人の言っていることは正しく、今の俺の財布の中身は、ジーンズはおろかTシャツだって買えるかどうかも怪しい状況だった。そうだけれど、それが何かお前にとって重要なのかよ。俺は、なにやらもったいつけた言い回しで、煩わしい母親みたいな事を言ってくれた、電話の向こうに居る醤油呑み星人に向かい、ほっといてくれアンタに心配されることじゃないと、声を荒げて食ってかかった。それに対して彼女は、別にアンタが臭くて周りからどう思われようが知ったこっちゃないわ、私が臭い人と肩を並べて仕事するのが嫌なのよと、非常にわかりやすい返事をしてくれた。
 だから、アパートに行って着替えをもらってきてあげたの。ついでに、丁度もう一人の妹さんがいないから、アンタに電話をかけてあげたの。悪い。