「砂糖女史の吐息」


 砂糖女史の人差し指が、射精したばかりのそれの裏側をなぞった。先ほど俺が放った精液と彼女の唾液で湿った指先は、硬くそそり立つ俺の分身の上を軽快にすべり、やがてチャックの門をくぐって、その根元、鬱陶しく生い茂った毛に覆われている、小袋へとたどり着いた。皺がかった小袋をつま先で掻きながら、彼女はその赤みがかった頬をそっとこちらへと近づける。
 蛍光色のように暗闇に浮かぶ紅色の彼女の唇。まるで植物の発芽のスロー再生を見ているように、ゆっくりと開かれたその唇の中から、赤い色をした舌が伸びる。それは、先ほどの人差し指の代わりに、俺の男性器の裏側を緩やかに這いずる。指でされた時とは違い、ザラザラとした質感が心地よいそれは、生温かい彼女の体温を、指先よりもさらに生々しく俺に感じさせた。
 彼女の舌が二度三度俺の男性器の上を滑った。彼女は一旦その舌を口の中に戻すと、俺の太腿を優しく撫でていた、その細く白い指で再び俺の男性器を包み込んだ。そして、それを自分の顔に向かって真っ直ぐに起立させ、その熱っぽく上気した顔を、ゆっくりとこちらに向かって下ろした。その赤い薔薇のつぼみは開かれており、辺りに満ちた闇よりも、いっそう濃い闇を住まわせたその中に、淫靡な水音を立てて、先ほどの紅色の舌が踊っていた。
 彼女の口内に自分が埋没していく。先んじて俺の精液を含んでいた砂糖女史の口の中は、程よく温まっていて、程よく湿っていた。頬の肉が彼女の呼吸に合わせて震え、白い歯が敏感な竿を擦った。まるで口の中に棲んでいる生き物のように動く舌に、喉からせり上がってくる砂糖女史の嗚咽。彼女の口の中に存在するなにもかもが、俺にはなぜかとても心地よく感じられた。
 ゆっくりと上下運動を開始する彼女の頭。股間に伝わる優しい振動に、腫れ上がった男性器がさらに膨れ上がり、乱暴に身もだえる。はたして、彼女のフェラチオが上手いのかどうか、半分溶けているような妖怪にしか、そんなことはされたことのない俺には分からない。いや、夢の中でならば何度かこのようなことを、彼女にもしてもらった覚えはあるが。所詮、夢は夢である。今、この強烈な快感を伴う現実を前にして、そんな物がどれほどの物差しになるだろうか。彼女の歯がカリを引っ掛け、舌が尿道をこじ開けるようにして舐めとる。すぼめられた彼女の頬が俺の欲望をきつく締め上げて、まだ出したばかりだというのに、俺は二度目の限界を向かえようとしていた。
 ふと、そこで意識が飛んだ。まるで夢の良い所で突然目覚めてしまうように、まるで何かの拍子で浅く心地よい眠りの中から現実に戻されたように、俺は意識と感覚を失った。次に気がつくと、俺の上に覆いかぶさるようにして、砂糖女史が眠っていた。穏やかな表情で、まるで、何もなかったかのように、彼女は静かな寝息を立てて、布団越しに俺の上で眠っていた。
 いったい、なにがどうなっているのだろうか。ふと、下半身を覆っている不快な滑りに気がついた俺は、そっとズボンの中に手を這わした。ズボンから引き抜き、暗闇の中でそのまさぐった手を開くと、栗の花の淡い香りが途端に漂って、どうやら俺が夢精したらしいことに、どうやらここまでの砂糖女史との一部始終が、夢であったことに、俺はようやく気がついた。