「砂糖女史の救護」


 言うや、顔を赤らめる砂糖女史。少し考えて、なんだったらトイレまで連れて行きますよ、なんてことを彼女は言いかけたが、そんな事をすれば自分がどういう目で周りから見られるか考えたのか、途中で言葉を飲み込んだ。まぁ、それが普通の反応だろう。頼むから早くしてくれ、もう漏れそうなんだと言うと、彼女は顔を伏せたまま、また部屋から出て行った。
 たったったと、砂糖女史の廊下を駆ける音が耳の中に何度も響く。その音がフェードアウトし、フェードインし、再び彼女が戻ってくると、その手には実に分かりやすい形をした尿瓶が握られていた。言ってすぐに出してくるとは、ずいぶんと用意のいい旅館である。俺のような客が、少なからずいると言うことだろうか。それとも尿瓶を必要とする客がとまりに来るのか。なんにせよ、今にも堰が切れそうな俺にとってありがたいことには違いない。
 悪いけれど、部屋から出てってくれ。事がすんだらまた呼ぶから。俺は砂糖女史から透明なプラスチックの容器を受け取ると、お礼もそこそこに彼女を部屋から追い出した。彼女は無言で俺の言葉に従って部屋を出ると、襖を閉めた。その向こうに彼女がいると思うと、まだいくらか恥ずかしく感じる所もあったが、背に腹は変えられない。俺は布団の上に寝転んだままズボンのファスナーを降ろすと、そこから大きくなった分身を導き出し、尿瓶の中へと挿入した。口の広いそれは俺の陰茎をすんなりと包み込んだが、無機質で冷たい表面には嫌悪感しか感じなかった。動作はまったく同じだと言うのに、随分と抱く想いは違う。気持ち、雰囲気、愛情という奴はつくづく偉大だな。そんな今考えた所でどうしようもない事を思いながら、俺は尿瓶の中に膀胱内に溜まりに溜まった黄金色の液体を、勢いよく注いだ。
 出した液体に自分の息子が浸ってしまうのではないかと心配するほど、尿瓶の中に出した俺は、口の辺りで自慢の息子を振るい残滓を落とすと、それに蓋をしてたたみの上に置いた。全てを出し切り腑抜けになったそれを、ズボンの中にしまうとチャックを上げる。一呼吸置いて心を落ち着けると、俺は襖越しに待機している砂糖女史を呼んだ。すぐに襖が開いて、伏目がちに彼女が部屋の中へと入ってきた。短い髪の毛で視線を隠すようにうなだれている彼女だったが、寝転がっているものにはそれも意味はない。彼女の暗い瞳を覗き込んで、悪いんだけれどもこれを捨ててきてくれないかと尿瓶を差し出すと、彼女は顔を真っ赤にしてそれを受け取り襖の向こうへと消えた。
 我ながら砂糖女史を存分にこき使っているなとは感じていたが、実際そうでもしなければ、今の俺はなんともしようがないのだから仕方がなかった。空になった尿瓶を持って疲れた顔で帰ってきた砂糖女史に、ねぎらうよりもお礼を言うのが誠意だとばかりに、俺はありがとうと声をかけた。
 いえ、こうなったのも私のせいですから、世話をするのは当然なんです。少し逡巡した様子を見せると、砂糖女史はそんなことを俺に言った。別に、ビールは俺が勝手に飲んでいて、勝手にアンタに注がせたのだから、自分の責任だろうと、俺が言うと、彼女はなんだか高そうなウィスキーのボトルを取り出し、俺に見せた。これ、昨晩私が間違えて貴方に飲ませたお酒です。