「味噌舐め星人の警告」


 ことの次第を順を追って説明すると、オーナーはその額に手を当てた。
 ホント、あの娘ったら、常識がないんだから。そんな所まで弁当を買いに行くのもそうだし、店員さんにその弁当を持たせるだなんて。ごめんなさいね、私からあの娘にはしっかりと言っておくわ。いえ、まぁ、彼女とは前から知り合いですし、それに、こういうのにはなれていますから。砂糖女史のこれまでの所業をこれでもかと悪し様に言っておいてなんだが、俺は彼女をそれとなくフォローした。味噌舐め星人と同じで、彼女に迷惑をかけられるのは仕方のないことだと割り切っている。まぁ、それでも腹は立つには立つので、こうして聞いてくれる人が居るならば、多少愚痴ったりはするが。
 私から言うのはなんだけれど、本当にごめんなさいね。そうだわ、もしよかったら少しばかり飲んでいきません。ちょうど彼女達も、貴方に興味があるようですし。少し、お話して言ってわ。俺を見てか、それとも俺の背後にたむろする女の子達を見てか、オーナーは朗らかに微笑んだ。言われて初めて、俺は背後で女の子達がなにやらひそひそと、小さな声で話し込んでいるのに気がついた。俺に興味を持っている、とはどういうことだろうか。よく分からずに振り返ると、その場に居る全員が全員、俺を見つめ返してきた。いや、俺を見つめていた。オーナーの言うとおり、興味津々という眼で。
 ねぇねぇ、お兄さん、アンタ、ちょっとあの娘のなんなのさぁ。いつの間にか、俺の足元に擦り寄っていた金髪の女性が俺を見上げて言った。艶っぽいたらこ唇が可愛らしい童顔の女性だ。いや、なんなのさって、ただの知り合いだけれど。俺が言うや、またしてもいつの間に近づいたのか、今度はポニーテールの女の子が俺の腕を握っていた。知り合いぃ、どのくらいの知り合いなのかなぁ、Aまで、Bまで、Cまで、どこまで知ってるのぉ。結い上げたポニーテルを含めた髪の跳ね具合といい、その豊満な胸元を包んでいる着物のほつれ具合と言い、絶妙だった。酒で上気した顔と、眠たげな瞳もまた、男心をさわさわとそよ風の様に心地よくくすぐってくれる。なんなのだろうか、この女の子達は、本当にメイド喫茶のメイドなのだろうか、なんて思っていると、勝手に右手が持ち上がる。さっ、こっちに来て、お話を聞かせてくださいなといったのは、耳の横でふんわりと広がるショートヘアの女の子。マロン色の髪の毛と、酔っているのかそれとも素なのか分からない、細く眠たげな瞳。微笑む彼女の顔は、オーナーと同じでどこか妖艶だった。
 まずい、なんだか分からないがこのまま流されてはまずい。そう思いながらも、俺はなす術もなく彼女達に引きずられ、宴会の席に着いた。ささっ、どうぞと差し出されたビールのプルタブをあげ、まずは一口。これでもかという量の弁当箱を、これでもかという距離を運ばされた俺に、ビールはよく沁み込んだ。一息に飲み干すと、周りで感嘆の声が上がる。ここはなにか、キャバクラかなにかかと思っていると。すかさず次のビールが出てくる。
 お兄さん、お兄さん、明日こそは絶対に美味しい味噌料理のお店に、連れていってくださいね。約束ですからね。破ると味噌千グラム飲ましますからね。ふと、味噌舐め星人のそんな声が聞こえた気がして俺の手が止まった。