「味噌舐め星人の両用」


 味噌舐め星人の作った味噌雑炊は、相変わらず味気ないのもいい所な出来具合だった。しかし、病気の身にはかえってそのくらい味付けが薄いほうがよかったらしく、気がつくと俺は土鍋一杯に入っていた雑炊を綺麗に平らげていた。あまりに早く食べ過ぎたものだから、台所から自分のお茶碗とスプーンを持ってきた味噌舐め星人に、あぁ、もう全部食べちゃったんですが、私も食べようと思ってたのに、酷いです酷いですと、怒られてしまったくらいだ。別段、食べていて美味しいとは思わなかったし、余裕がないほど腹が減っているわけでもなかったのだが、なんとも不思議なものである。
 雑炊を食べてしまった事をしつこく非難する味噌舐め星人に、風邪がうつるから食べれなくてよかったんだよと弁明すると、俺は膝の上からお盆をどけると、再び布団に潜り込んだ。といっても、扁桃腺にしては充分すぎるほどに昨晩は寝た。今更眠る気分にもなれず、俺は布団に包まったままちょうど頭の辺りに転がっていたリモコンに手を伸ばすと、足元にあるテレビの電源を点けた。昼前のバラエティ番組はどうにも主婦向けのものが多く、どれもこれも俺の趣味ではない。NHKで歴史番組でもやっていれば喜んで見たのだが、それもやってはいなかった。当たり前だ、平日の朝である。
 あっ、あっ、がんこちゃん。お兄さん、さっきテレビでがんこちゃんがやってました、見ましょうよ、ねぇ見ましょう。チャンネルを無造作に変えていると、味噌舐め星人が突然叫んだ。特に見たいものもなかったし、そうしてやらないとまた彼女の事だから五月蝿い事になりそうだった。なので、俺はテレビのチャンネルをNHK教育番組に戻し、リモコンを枕元に置いた。テレビの中ではピンク色した恐竜の人形がのっしのっしと幅を利かせて歩いている。この番組もかれこれ長いことやっている。そういえば小学生くらいの時分、よく扁桃腺で学校を休んでは親の目を盗んで見ていた気がする。
 ぼんやりと俺が思い出に浸っていると、いつの間に、どこで着替えてきたのか、タートルネックに黒いデニムのストレッチパンツ姿になった味噌舐め星人が、やぁっと俺の布団の上に飛び乗ってきた。そのまま彼女は俺の布団の上に陣取ると、テレビの中の人形劇を食い入るように見始めてしまった。ちょうど俺が寝ている位置からだとテレビが見えない。別段、その番組を見たいわけでもなかったが、俺は味噌舐め星人に、そこに居るとテレビが見えないだろうどいてくれよと頼んだ。味噌舐め星人は面倒くさそうにはぁいと言って立ち上がると、俺の腹の上から退いた。そしてすぐさま、体の代わりにその頭だけを俺の腹の上に乗せると、まるで俺の腹を枕にするようにして寝転がった。そうして、何事もなかったようにテレビを見る味噌舐め星人。どうにも、彼女、俺の腹の上を気に入ったらしい。そういえば、ミリンちゃんと俺がまだ仲がよかった頃、俺が寝ながらテレビを見ているとやはりこうして、ミリンちゃんに腹の上を枕にされたことが何度かあったのを覚えている。もっとも、今となってはミリンちゃんも俺にそんな事しやしない。しかし、そうだとしても、これではどっちが姉か妹か分かったものじゃないなと、俺は無邪気に笑う味噌舐め星人の、その柔らかな黒い髪をなでながら思った。