「味噌舐め星人の抱擁、塩吹きババアは愛撫する」


 最終的に味噌舐め星人は俺の左腕を抱き枕にして眠りについた。眠った頃合を見て、俺は味噌舐め星人を体から引き剥がすつもりだったが、彼女は随分と強い力で俺の左腕にしがみついており、どうにも残った右腕一つでは用意に引き剥がせそうではなかった。やれやれ、俺はため息をついた。おそらくこのまま寝てしまえば、力いっぱいに締め付けられて血流が悪くなった左腕は、明日の朝には鉛か鉄のように冷たく、重くなっていることだろう。
「ふむ、可愛らしい寝顔だのう。まるで天使のようだ、とでも思っておるのだろう。まったく、しょうのないのう若者という奴は。女の子に少し甘えられたくらいで、すぐに鼻の下を伸ばし下のほうも伸ばすのじゃから……」
 味噌舐め星人を挟んでその向こう、味噌舐め星人の布団の上に――流石に三人で一つの布団で寝るのは困難だったので、塩吹きババアが俺の布団の横にそれを敷いた――に塩吹きババアは横たわっていた。自分の左腕を枕にしていた彼女は、眠れないのか、はたまた眠る必要がないのか、暗闇の中にその瞳を煌煌と満月の様に光らせて、なぜか俺の方を見つめていた。何も伸ばしてなんかいやしないよ。俺が塩吹きババアに反論すると、彼女は窓から差し込む月の光の中で、その笑みをゆっくりと極めて妖艶なものに変えた。
 何かが俺と味噌舐め星人の眠る布団の中に侵入した。それは、味噌舐め星人の体の上を通り、仰向けに寝ている俺の腹の上に降り立った。蜘蛛の様に俺の腹の上をそれはまさぐり、下腹部の方へと素早く静かに移動していく。
 おい、やめろよ。と俺は塩吹きババアに注意を促した。けれども彼女はまるで聞こえちゃいないという感じに、眼を瞑って俺の言葉を無視した。そうこうしているうちにも、布団の中の蜘蛛は俺のズボンの中に入り込み、俺の男性器にちくりとその牙を突き刺した。毒を注入され痙攣したかのように、俺の男性器に一瞬だけ波打つような感覚が、刺激が、快感が流れた。
「たしかに伸ばしてはおらぬようだのう。なんともまぁ、つまらん奴だ」
 つまらなくてどうも、と、俺は塩吹きババアに強がって見せた。彼女の手は冷たくて、柔らかくて、すぐにでも俺の男性器は伸びてしまいそうだった。はやく、その手を離せと俺は眼で塩吹きババアに訴えかけた。けれども塩吹きババアは俺の訴えを退けるように、また妖艶に月明かりの中で微笑んだ。下腹部の五本足の蜘蛛が俺の男性器に絡みつき、そして優しく締め上げた。
 見る見るうちに、俺の下半身は充血していく。塩吹きババアの指は、時に舌の様に俺の男性器の先を嘗め回し、時に口中の様に俺の男性器を吸い上げ、時に歯の様に俺の男性器を握り緊めた。彼女の指の腹が、俺の男性器を撫であげるたびに、口から漏れそうになる快楽の嗚咽を俺は必死になって堪えた。隣で眠る味噌舐め星人にこの事を感づかせてはいけないと、俺は必死に堪えた。それを嘲笑うかのように、塩吹きババアの男性器への愛撫は執拗さを増していく。なんで、こいつはこんな事をするんだ。こいつは何がしたいんだ。
「それは前に一度言うたぞ。人間、時に快楽へ身をゆだねることも必要じゃ」
 俺の心を見透かしたように、塩吹きババアが言った。視界の端で穏やかな顔で寝息をたてる味噌舐め星人。俺は彼女と同じ布団の中で精を放った。