「味噌舐め星人の再会」


 待ち合わせの時刻になったのに店長はいっこうに現れなかった。十分を過ぎても二十分を過ぎても店長は現れなかった。ねえまだですか、ご飯はまだですかと味噌舐め星人がごね始め、一応ついてきた塩吹きババアはといえばちょっと暇つぶしに人を驚かしてくるとどこぞに消えてしまった。それでも店長は来なかった、遅れるという連絡さえ来なかった。そうしてきっちり三十分たった頃、店長は何食わぬ顔をして俺たちの前に現れた。やぁやぁ、皆さんこんばんは。待ち合わせの時刻はまだなのに早いね。いや、三十分前に集合って言ったじゃないかと俺が問いただすと、あれ、そうだったけと店長は白々しく言った。俺はこの馬鹿といざこざを起してぎすぎすした夕食をする破目になるのは真っ平だったので、あえてそれ以上は何も言わなかった。
 やぁ妹さん久しぶりと店長は味噌舐め星人に声をかけた。久しぶりも何も、店長がコンビニいることも気づいていない味噌舐め星人は、あなた誰ですかと随分と残酷な返事をして、店長の顔を引きつらせた。それでも諦めない店長は、やだなぁ、お兄さんの働いているお店の店長ですよと食い下がった。だが彼がそう言うと味噌舐め星人はえらい剣幕になって、貴方がお兄さんを夜遅くまで働かせてる人ですか、お兄さんを早く返してください、でないと私はお腹がペコペコなのですよと、腕を振り上げて怒り始めた。どうして俺が怒られなくちゃならないんだと、店長は俺に訴えるような目を向けてきた。実際の所、店長がしっかり働いてくれば、俺の夜勤の時間も少しは縮まるような気がしたので俺は彼の訴えを当然のように無視した。
 ところで、君、朝言ってた君のお姉さんは何処にいるんだい。妹さんと同じで、お姉さんもさぞ美人なんだろうねえ。ねえ、もったいつけずに紹介しておくれよ。店長は鼻の下を伸ばしながら辺りを見回して俺に言った。あぁそうね、そんな事も言ったっけね。実はさ、急に姉貴の都合がつかなくなっちゃって今日は来られなくなったんだ、紹介するのはまた今度でいいかい。俺が何食わぬ顔でそう言うと、なんだいそれは、話が違うじゃないか、せっかく男女比二対二で楽しい飲み会ができると思ったのに、君のせいで色々台なしだよ、と店長は顔を真っ赤にして憤慨した。そもそも、最初は味噌舐め星人だけを呼ぶつもりだったくせに、ただ元に戻っただけじゃないかと、俺はよっぽど店長の奴に言ってやりたかった。だが、やはり今から奢って貰える相手に対してそんな事は言えるはずもなく、いやー、すみませんね、うっかりしてました、そのうちまた連れてきますんでと、俺は言葉を濁した。
 どうしようかな、飲み屋には四人で予約入れちゃったんだよな。ううん、どうしようかな。別に店に一人減ったと断りを入れれば良いだけだろうに、店長はなんだかわざとらしく、それでいて俺の方をちらちらと伺いながらそんな言葉を呟いた。恐らく、俺ならもう一人くらい女の子の知り合いがいるんじゃないかと勘ぐり、連絡をつけさせようとしているのだろう。やれやれ、そんな期待をされても、俺の携帯電話のアドレス帳には、正真正銘の妹であるミリンちゃんくらいしか登録されていないって言うのに。どう言ってやったものかなと俺が思っていると、偶然見知った女の顔が俺の視界に入った。